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流れゆく日々 27

「紫苑、ちゅうー♪」 グデングデンの忍はさらにさらにタチが悪くなり、今度はキス魔に変身していた。 「もー飲み過ぎだって!タクシー拾うからもう帰れ、な?」 紫苑が心底付き合いきれなくなって言った時には、当の本人は既に夢の中だった…。  なんとか無理矢理忍をタクシーに押しこんで、やっと解放された紫苑は、静流の寝こみを襲うべく、ルンルン気分で帰宅した。  部屋の中は真っ暗で、よく見ると一筋の光が差している。 トイレからだった。 「しず…?」  恐る恐る紫苑がトイレを覗くと、洋式の便器に顔を突っ込みそうにしてしゃがみこむ静流の姿があった。嘔吐しているらしい。 背中をさすってやると、そのままごろりと倒れた。 「しずーーーーーッ?!」  パジャマに着替えさせられた静流は、ベッドに座ってホットミルクに口をつけている。 その横に同じように紫苑も座り、髪を撫でたりしながら事情を聞く。 「何か悩み事でもあるのか?しずがこんな時ってたいていなんか悩んでるときだろ…?」 静流はぽつりぽつりと話し始めた。 「わ…ワケのわかんないヤツに犯られた…でもむこうは僕の名前知ってた…名前だけじゃない、僕が『別サービス』してたことも知ってた。抵抗しようとしたら僕の代わりに紫苑を犯るって言ったんだ…言葉の侮辱の上に、何の前触れも無くいきなり…」  静流が恨みを買うとも思えない、一体誰が、何のために―――?! 紫苑の頭をいくつもの疑問が過ったが、今はとにかく静流をいたわろうと思った。 「痛かっただろ…誰だよ、俺のしずにこんなひでーことしやがって…」 静流をふわりと優しく抱きしめて、紫苑はそのままじっとしていた。 「明日仕事休めよ、俺も休むから」 「うん…」 静流はかなり落ち付いてきた様子。 紫苑はゆっくりと横にならせ、自分も一緒に寝転んだ。 「あ、そうだ、今日あっきーにキッパリ断ったぞ。そうそう、しずが今日弁当持ってきてくれただろ?そのちょっと前にあっきーがいたんだよ。あ、弁当箱忘れてきた」  静流の顔から見る見る血の気が引いた。 「紫苑、あっきーの写真、もう一回見せて!」 がばっと体を起こして紫苑に叫んだ。 「なんだよ、もういいだろ…」 照れくさそうにふくれる紫苑。 だが、あまりの静流の気迫に圧され、しぶしぶ写真を手渡した。 「…」 しばし無言で写真を見つめる静流。 「――こいつだ、あっきーだよ!!」 はっと顔を上げて紫苑の体を揺さぶる。 「この人今もっと髪長めでサルみたいな髪型してるだろ?!今日はブルーのTシャツで!」 「おい待てよ、あっきーがなんで…」 そこまで言って紫苑は思い出した。 『もし今一人だったら…』 あっきーが言った言葉。

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