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流れゆく日々 28

 頭の中でその言葉と静流の話しが噛み合うやいなや、紫苑は既に立ち上がっていた。 「ちょっと、どうするつもりだよ」 静流が慌てて止める。 「――ブッ殺す!」 血の気の多い紫苑らしく早くも靴を履きにかかっていた。 「ダメだよ紫苑、行かないで」 静流が弱々しく腕を取って引きとめる。 「お前それでいーのかよ?!」 紫苑が腕を振りほどく。 「よ、よくはないけど…」 「当たり前だ!あのヤローどーしてくれよーっ」 ドアノブに手をかけたところで、また静流が止める。 「でっでも何かあって訴えられたりしたら仕事…」 紫苑は腹が立っている上になかなか静流が行かせないのでイライラしていた。 「モデルの仕事なんてどーでもいんだよ!!離せ!!!」 「行くなって言ってるだろ!!」  いつになく声を荒げる静流に、紫苑の動きが止まる。 「しず…?」 「あ、ごめん…」 急に我に帰った静流は、顔をまっ赤にして申し訳なさそうに謝った。 そして、紫苑に後ろからくっついた。 「紫苑があいつに会いに行くのがイヤなんだ、それに…」 「それに?」 「…今は僕から離れないで」 腰が砕けそうな甘く弱々しい瞳で見上げられ、紫苑はその場に崩れそうになるのをかろうじて堪えた。 「わかったよ…気づかなくってゴメンな…」  翌朝になっても静流の様子は変わらなかった。 紫苑は自分が何もしてやれないことが歯痒く、悔しかった。 「そういやしず、夕べから何も食ってねーぞ。俺コンビニ行くから何か食いてえモン…」 そこまで言うと静流はベッドから半身を起こして慌てて止める。 「何も食べたくないから出て行かないで」  さすがの紫苑も困ってしまった。 「すぐそこじゃねーか。それに少しは食わねえと…」 「怖いんだよ、何でも知ってたあいつのことだ、ここだっていつ調べて来られるか…」  幼い子のようなすがる瞳にもはやなす術もなく、紫苑は静流も一緒にコンビニに行くことにした。 そんな静流に愛しさを感じる反面、あっきーへの憎しみは倍増する。  気分転換に、と思ったコンビニへの散歩も、紫苑の空回りに終わった。 外へ出ればおどおどしっぱなしで、連れ出したことを申し訳なく思うほどに怯える静流だった。  静流がようやく少し落ち着き、浅い眠りにつくや否や、紫苑は部屋を飛び出した。

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