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流れゆく日々 29
「やぁ久しぶり。夫婦喧嘩?」
にこやかに弟の帰郷を迎えるのは紫雲。
「ちがわい!俺たちゃラブフォーエバーじゃっ」
とりあえず誤解は解いておいて、早速本題に移る。
「暁が…?!」
話を聞いて血相を変える紫雲。
「そうか…紫苑や静流くんにまで…」
ことの発端は、数ヶ月前に紫雲によりを戻せと言ってきたが紫雲が断り、それが気に入らないのか先日は紫龍の家にまで押しかけたという話だった。
紫苑は愕然とした。
静流をあんな目に遭わせたのが間違いなく暁だったこと、紫雲によりを戻せと言ってきたこと、そして自分への告白もただの紫雲への腹いせに過ぎなかったこと…。
怒りよりももっと深い、澱のようなものが紫苑にまとわりついた。
「…紫苑も辛かっただろうね…好きだったんだろう?暁のこと…」
察した紫雲が紫苑の頭を撫でた。
「静流くんの言う通り、紫苑はもう暁に関わるな。兄ちゃんがちゃんと話するから…な?」
そんな言葉で兄弟は別れた。
別れてから、ふつふつと改めて怒りが込みあがってきた。
あっきーめ…ヒトの純粋な初恋の想い出までブチ壊しくさって……!!!
数日後、ようやく静流も普段どおりの生活ができるようになった。
仕事にも復帰し、普通に食べられるようになった。
紫苑は安心して久々のバイトに出かけた。
相変わらず暇な本屋で適当に本棚を眺めていると、いつだったか静流が探していると言っていた、大学受験用の参考書が目にとまった。
バイトがあがってからその本を買い、静流の喜ぶ顔を想像しながら、鼻歌交じりでスタジオに向かう紫苑。
あれからゆっくり買い物なんて行ってないはずだから、きっとまだ見つけられてないはずだ。絶対喜んでくれる…。
本当は今すぐにでも届けたいが、悲しいかなお仕事。
休んでいた分まで働かねばならない。
ブツブツ言いながら歩く紫苑の後頭部に、突然激痛が走った。
「…ってェ…」
頭を振りながらかろうじて起きあがる紫苑。
「まだ気を失ってないとはな…相変わらず頑丈な奴」
鉄パイプを片手にニヤリと笑うのは、ほかでもない、あのあっきーだった。
「…てめぇ…」
頭がくらくらしながらも睨みつける。
「だがそのせいで、一度で済むはずが二度痛い思いをすることになるんだぜ」
もう一度同じところを殴打され、今度こそ紫苑は意識を失った。
どれぐらい時間が経ったのだろう。
紫苑が意識を取り戻すと、あたりは真っ暗だった。
「目が覚めたか?」
…まだいやがる。
顔を見ようと頭を上げると、割れそうに痛む。
その後ゆっくりとあたりを見渡すと、なんとなく見たことがあるような風景が広がっている。
「おい、ここどこだよ!?」
「静流くんの勤め先の近くだな。必ず通る道」
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