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流れゆく日々 30
この期に及んでまだ静流をひどい目に遭わせようというのか。
こんな姿の紫苑を見たら静流はどう思うだろう。
そしてやっと癒えかけてきた傷を、この男の顔を見れば一瞬にして開くことになるだろう。
「ちっきしょ…お前だけは…」
よろよろと立ち上がり、暁に反撃しようとするが、かなうはずもない。
出した手を簡単に捕まれてしまった。
「ムリだよ。おまえにケンカ教えたの俺だぞ?お前のテも弱点もみんな知ってんだよ」
喋りながらも、その『弱点』を徹底的に攻めていく。
ついに紫苑は、暁の支えなしでは立てなくなった。
暁は紫苑の片手首だけを持ち、ともすればその場に倒れてしまうであろう紫苑をかろうじて跪かせていた。
「なぁ紫苑、なんで紫雲があのこと知ってんだ?なんで俺だってわかったんだ」
どうも今日の暴力の数々は、このことが原因らしい。
「し、しずに…お前の写真、見せてたから、だよ…」
息も絶え絶えに答える。
「―――フツー見せるか?今付き合ってるヤツに『初恋の人』の写真なんか」
明らかに不快な顔で、暁は紫苑に蹴りを入れる。
ついに紫苑は汚い舗道にぐったりと倒れこんだ。
「くそ…やるならさっさとやれよ…」
もう何をする力も残っていなかった。
ただ、早く、静流に見つかる前に、ここから移動しなければならない。
そのことだけが紫苑の頭に残っていた。
暁は紫苑の言葉を聞いて呆れるように言った。
「お前を?ジョーダンだろ。お前なんてやりたくもねーよ。その点静流は良かったぜ」
「るせえ…」
「見てるだけでこっちがイキそーになるもんな、あのカオ」
「るせーよ…」
「苦痛に歪んだ表情がまたそそるんだ…」
「るせーよ黙れ!!」
「誰の顔がそそるんです?」
暁はその背後からの冷ややかな声と同時に、凍てつく殺意を感じた。
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