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流れゆく日々 34

「まだ落ち着きませんか」 苛立たしいため息ばかりついている静流に、高杉が声をかける。 「落ち着くわけないですよ…僕があんな目に遭わされたのだって元はと言えば…」 「さっきから気になってたんですが…一体あの男に何をされたんですか」 高杉が身体を乗り出してきたので、静流は特に隠す必要もないし何よりあっきーへの当てつけもこめて、一部始終を話した。 「そうですか、そんなことが…」 冷静に口にした高杉だったが、はらわたは煮え繰り返っていた。 『あの鬼畜ザル、ブッ殺す』 と固く決意したのだった。 「…済んだことはもういいんです、それより僕は紫苑があんなヤツのこと…」 歯痒そうに俯く静流の顎をとり、上を向かせて唇を重ねた。 静流はされるがままだ。 「今日は拒まないの?」 身体を離し、試すように静流を見つめる高杉。 「僕、高杉さんのこと好きです。もう紫苑なんて…」 静流の言葉をそこまで聞くと、高杉はくるりと背を向け、冷たくこう言い放った。 「静流くん――家に戻りなさい」 「高杉さん?!どうして――」 困惑を隠せない静流を尻目に、高杉は立ちあがって言った。 「アテツケの道具にはなりたくないんですよ。自暴自棄になってるあなたを抱いて、後で恨まれるのはイヤですからね」  高杉は何もかもお見通しだった、静流本人すら気づいていないところまで。 一時の感情に任せて調子のいいことを言ってしまった自分を静流は恥じた。 「ありがとう高杉さん、尊敬します…もっと早く、あなたに出会いたかった――!」 違う、あなたが思っているような人間じゃない、高杉は心の中でそう思った。 「尊敬だなんて…僕はお金という口実がなければあなたを抱けない、ただの小心者なんですよ」 口惜しげに吐き捨てた高杉の顔を、静流は見てはいなかった。 「で、でも、今夜は泊めてもらえませんか?あんなことがあってすぐには帰りづらくて…」 申し訳なさそうに懇願する静流を見て、高杉は苦笑いした。 「…あなたもつくづく身体に悪いことを言う人だ」 「え?…あっ」 意味がわかって赤面する静流を見て今度は愛おしそうに笑った。 「かまいませんよ。明日の朝一番で送りましょう」  翌朝、二人は部屋に戻った。 静流が恐る恐るカギを開け、中に入ると――― 「なんであなたがここにいるんです」 固まっている静流に代わって高杉が代弁した。  高杉を見るや、あっきーの顔はにわかに輝き、己の手柄を報告した。 「紫苑がゆうべ悪酔いしてダウンしちゃったんでぇ、俺送ってきたんですよーエライ?」 一生懸命の報告も、 「送ってさっさと帰ればいいでしょう?なんで朝までいるんですか」 美しい笑みを湛えた冷たい言葉に一蹴された。  まだぎゃーぎゃーわめいているあっきーを連れ、高杉は部屋を後にした。

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