76 / 87

流れゆく日々 36

「ぎぼぢわる~~~~」 ぜえぜえとたいそうな息遣いの紫苑の傍らで、不本意ながらタオルを絞っているのは静流。  なんとなく釈然としないまま、紫苑の看病をしているのだ。 紫苑は酔いつぶれた上に風邪をこじらせていた。 うすくまっている紫苑を、額にタオルを当てるために仰向けにする。 「ほら、紫苑ちゃんと上向いて」 静流の声に、意外そうに紫苑が目を開けた。 「しず…?帰ってたのか」 「そうだよ、何か欲しくない?」 言うが早いか、だらりと腕が伸びてきて、静流の首を巻いた。 「ありがと…戻ってきてくれて」 この一言が、静流の心に突き刺さった。 冷静に考えたら、ひどいことを言ってしまった――。 「当然だろ。ここは僕らの家なんだから…」  おかゆを食べさせ、汗でびっしょりと重くなった服を脱がせた後、静流は自らも着ているものを脱ぎ紫苑の横にもぐり込んだ。 「熱が下がるまでこうしてるからね」 寒気がする、という紫苑を気遣ってのことだろうが、紫苑は複雑だった。 (…一部だけ元気になるだろーが…)  いつのまにか、紫苑は少し眠ってしまったようだった。 不快感で眠ることすらできなかったことを思えば、少しは回復したと言える。  ふと、横に目をやる。 自分を包み込むようにして、すやすやと寝息を立てる最愛の人の顔が、真横にあった。 こんなに美しく、愛しい人が、自分を愛してくれている。 紫苑は静流と出会えたこと、同じ時に生を受けたことになんとなく感動した。 思えばすごい偶然だ。 そのあとには、お決まりの欲求がむくむくと頭をもたげてくる。 「しず…」 気持ちよさそうに、安心しきって眠っている。 昨日あんなに言い争ったのが嘘のようだ。 紫苑は起き上がり、静流の上に覆い被さった。 「ん…?紫苑、もう具合いいの?」 気配を感じて、寝ぼけ眼で静流が問う。 「しずのおかげで、めっちゃ元気になった♪」 明らかに静流とは違う意図の答えが返ってきた。 「そうだ、その前に。ごめんな、しず。昨日…お前の気持ちも考えずに。でも、やっぱあっきーは何をしたって俺にとっては特別なんだ」 紫苑が思い出したように切り出すと、静流は笑って首を振った。 「ううん、わかってる…それより、僕の方こそ酷いこと言ったよ」  自然と二人の距離が近づき、紫苑が優しく抱きしめる。 静流も応じるように紫苑の首に腕を回す――そんな時。 ピンポーン♪ 「ねぇ紫苑、誰か来たよ」 「ほっとけ」 言い捨て、紫苑はコトに及ぼうと夢中だ。 静流も気にはなりながら、期待に胸を膨らませた―― 「…兄ちゃん?」

ともだちにシェアしよう!