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流れゆく日々 36
「ぎぼぢわる~~~~」
ぜえぜえとたいそうな息遣いの紫苑の傍らで、不本意ながらタオルを絞っているのは静流。
なんとなく釈然としないまま、紫苑の看病をしているのだ。
紫苑は酔いつぶれた上に風邪をこじらせていた。
うすくまっている紫苑を、額にタオルを当てるために仰向けにする。
「ほら、紫苑ちゃんと上向いて」
静流の声に、意外そうに紫苑が目を開けた。
「しず…?帰ってたのか」
「そうだよ、何か欲しくない?」
言うが早いか、だらりと腕が伸びてきて、静流の首を巻いた。
「ありがと…戻ってきてくれて」
この一言が、静流の心に突き刺さった。
冷静に考えたら、ひどいことを言ってしまった――。
「当然だろ。ここは僕らの家なんだから…」
おかゆを食べさせ、汗でびっしょりと重くなった服を脱がせた後、静流は自らも着ているものを脱ぎ紫苑の横にもぐり込んだ。
「熱が下がるまでこうしてるからね」
寒気がする、という紫苑を気遣ってのことだろうが、紫苑は複雑だった。
(…一部だけ元気になるだろーが…)
いつのまにか、紫苑は少し眠ってしまったようだった。
不快感で眠ることすらできなかったことを思えば、少しは回復したと言える。
ふと、横に目をやる。
自分を包み込むようにして、すやすやと寝息を立てる最愛の人の顔が、真横にあった。
こんなに美しく、愛しい人が、自分を愛してくれている。
紫苑は静流と出会えたこと、同じ時に生を受けたことになんとなく感動した。
思えばすごい偶然だ。
そのあとには、お決まりの欲求がむくむくと頭をもたげてくる。
「しず…」
気持ちよさそうに、安心しきって眠っている。
昨日あんなに言い争ったのが嘘のようだ。
紫苑は起き上がり、静流の上に覆い被さった。
「ん…?紫苑、もう具合いいの?」
気配を感じて、寝ぼけ眼で静流が問う。
「しずのおかげで、めっちゃ元気になった♪」
明らかに静流とは違う意図の答えが返ってきた。
「そうだ、その前に。ごめんな、しず。昨日…お前の気持ちも考えずに。でも、やっぱあっきーは何をしたって俺にとっては特別なんだ」
紫苑が思い出したように切り出すと、静流は笑って首を振った。
「ううん、わかってる…それより、僕の方こそ酷いこと言ったよ」
自然と二人の距離が近づき、紫苑が優しく抱きしめる。
静流も応じるように紫苑の首に腕を回す――そんな時。
ピンポーン♪
「ねぇ紫苑、誰か来たよ」
「ほっとけ」
言い捨て、紫苑はコトに及ぼうと夢中だ。
静流も気にはなりながら、期待に胸を膨らませた――
「…兄ちゃん?」
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