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【パラレル】招かれざる客 2

 静流は指名されるがまま男のテーブルに行き、挨拶した。 「はじめまして、静流と申します…」  しかし、挨拶が終わらないうちに、男が静流の手を掴んで立ちあがった。 「個室へ行こう。別サービス希望だ」   静流は戸惑いながらも、手を引かれるまま個室に入った。 紫苑が不安そうにその後姿を見つめていた。  個室の照明を少し明るくすると、男の顔がはっきりと見て取れた。 細く切れ長の目に、すらりと鼻筋の通った鼻。唇は薄いが形良く、肌とは対照的に燃えるように赤い。 「どちらでこの店をお知りになったんですか?」  不気味さを感じつつも、静流は業務の一環として世間話めいたものを始めた。 「そんなこと今はどうでもいい。私は、お前を抱きたくて来たのだ」  偉そうに、単に飢えてるだけだろ、内心そう思っていたが、そこはサービス業。堪えてスマイル。 「じゃあ、僕シャワー…」  立ち上がった瞬間、また腕を掴まれ、そのままベッドに放り投げられた。 この細腕の、どこにそんな力があるのか。 「抱きたい、と言っただろう。お前は、抱かれる以外の事は何もするな」  ゆっくりと、しかし重くのしかかってくる口調。地の底から響いてくるような声。静流は男の言うとおりにする事にした。  強引にではないが素早く静流の衣服を脱がせ、一糸纏わぬ状態にすると、そのまま組み伏した。決して乱暴ではないその動作に、静流も次第に酔いしれていった。 やさしく髪を撫でられ、耳元に舌を這わされて、静流は目を閉じて陶酔していた。そのうちに、男の顔、こんなときの彼の顔をよく見てみたいと思い始め、ゆっくりと目を見開いた。 男の顔は相変わらず青白かったが、瞳に紅の光が宿っていた。驚いたが、その光を見ているうち、意識は次第に遠のいた。 「私と共に生きよう―――永遠に」 「…しず、しず!!」  ぼんやりと目を開けると、そこには紫苑の顔が。 「気がついたか…。まったく、死んぢまったかと思ったぜ」  紫苑が安堵の溜息を漏らし、静流を抱きしめた。 静流はその抱かれ慣れた相手に、妙な違和感を覚えた。 「紫苑…熱あるんじゃない?」 「別に…風邪も引いてねぇし、だるくもねーけど?なんで?」  抱きしめた手を一旦緩め、向き合って話す。 「だって…すっごく熱いよ、紫苑の体」 「そうか?それより、俺はしずのほうが心配だ…顔色悪いぞ。今日はもう帰って寝てろよ、な?」  本当に気分が悪かったので、静流は紫苑の言う通り、早退した。  夜の街がこんなにも心地よいものだったなんて。 静流は新しい驚きと興奮に身震いした。 華やぐ街、けばけばしいネオン、赤みを帯びた月。 道行く人の生き生きした表情。苛つくクラクションの音まで、全てが鮮明で、艶やかで、美しい。  ただ、頭の芯がズキズキする。

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