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【パラレル】招かれざる客 3
「しず!起きろよ~、俺、しずのために朝飯作ったぞ!」
食べたくない、と内心即答したが、本当に言うわけにはいかないので、静流は鉛のように重い体をゆっくりと起こした。
「――?!」
窓から差す光に目が眩んだ。その後、体中が熱くなり、焼け爛れたように痺れ、吐き気が起こる。
「し…紫苑、窓…カーテン…」
青白い顔で震える静流にそう言われて、理由も聞けぬまま紫苑は急いでカーテンを閉めた。
「やっぱりまずい、か…」
落ちこむ紫苑。静流が箸をつけないのだ。
「そうじゃないんだ、ただ…気分がまだ…ごめん」
トースト、ハムエッグ、カフェオレ。
何これ?こんなものを今まで自分が食べていたとは信じられない。
何かがおかしい。僕の中で、何かが変わり始めている。
いつから――?
「しず…どうしちゃったんだよ…!」
眉間に皺を寄せて悩んでいると、紫苑がいても立ってもいられなくなって飛びついてきた。
「…わからない。自分でもわからないんだ…僕は、どうしたんだろ…?」
紫苑は静流をゆっくりベッドに寝かせ、自分も横に寝た。髪をさらさらと撫でる。
この感覚…。静流は何かを思い出しそうになった、が
「…何だこれ…」
紫苑のこの言葉に思考回路を断ち切られた。
「どうしたの?」
きょとんとする静流とは裏腹に、愕然とする紫苑。
「これ…」
紫苑が指差すのは、静流の首筋。
静流は自分で見ることが出来ない。
昨日の客にキスマークでもつけられたかと思い、先に言い訳が口から出た。
「昨日のお客が…」
言いかけたとき、紫苑の顔が青ざめた。
「昨日の客が…何なんだ?そんなことより、鏡見てみろ…それが、昨日の客の仕業か?」
そう言って手鏡を差し出す。静流は恐る恐る覗きこんだ。
まず、首筋にまで目が行かなかった。
顔。
これは、本当に自分の顔なのか――?
疑うほど、人相が変わっていた。
肌の色は土色、眼の下にはくまができ、頬もやつれている。瞳は死んだ魚のように濁っていた。
そして首筋に目を移す。頚動脈があるであろうそこには、なんと直径二ミリ程の穴が二つ並んでいた。
「なん…だよ、これ…」
静流はがくがくと震えだした。舌を噛みそうになるほど震えるので、紫苑は静流に布団をかぶせて布団ごと抱きくるんだ。
「しず、落ちつけ、落ちつこう、な…」
そう言う紫苑も混乱していた。
いつから静流はこんな風になってしまった――?
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