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【パラレル】招かれざる客 4

 静流はその日店を休み、もちろん紫苑も付き添うために休んだ。 「紫苑まで休む事なかったのに…僕なら平気だよ」  無理に見せる笑顔が痛々しい。  夜になって静流は少し顔色も良くなり、元気になったように思えた。 紫苑も静流の言葉も一理ある、と苦笑いしていた。 「じゃあもう寝よっか。良く寝て早く元気出さないとな」  紫苑が部屋の灯りを消した。 「…紫苑、紫苑…」  うめくように呼ぶ声がする。紫苑が目を覚ますと、静流が隣で魘されている。 「どうした?しず?」  紫苑が静流を抱き起こそうとして静流に触れると、静流は力いっぱい紫苑を突き飛ばした。 紫苑は勢い良く跳ね飛ばされ、壁に体を叩きつけられた。 「しず?!なんて力なんだよ…おいしず!何やってんだ!」  暗闇の中の、二つの紅い光を、紫苑は凝視した。 「しず…なのか?本当に…」  確かめようと歩み寄るが、 「寄るな…来るな…」  ゼエゼエと荒い息の中から搾り出すように、静流は繰り返す。 「なんだよその言いぐさは!!いい加減にしろよ…」  紫苑が一気に間合いを詰めると、静流は紅い双眸をかっと見開き、紫苑に襲いかかった。 「…誰だか知らねーけど、相手選んで乗り移った方がいいぞ」  紫苑は冷静にそう言うと、ひょいと静流の攻撃をかわし、振り向きざまに静流の首筋に手刀を一発お見舞いした。 静流は声もなくその場にくず折れた。 「場数が違うってもんだ。…それにしても、一体しずに何が…?」  誰…?  …あの男…  …あの客?! 「はあっ?!」  がばっと起きあがった静流は全身汗だく。 肩で息をしながら暫くは動けなかった。  首筋がうずく。そこだけが熱く、じんじんしている。 そっとその部分に触れた。 ――? 小さな穴が、2つ。  そのとき、急激に記憶の波が押し寄せてきた。 思い出したくない、忘れたいと無意識のうちに封印していた記憶が溢れ出す。 「紫苑!紫苑…!!」  静流の替わりにキッチンで慣れない炊事をしていた紫苑が驚いて部屋に入ってくる。 「どうした、しず?!」  静流の震えを止めるように、強く抱きしめる。 そして、次の静流の言葉を聞いて、思わずその手を離してしまった。 「僕…、昨日の客に何かされたんだ…」 「何かって…そんな事今更言うなよ」 「違う、何か…凄く恐ろしい事…この穴が関係あるんだ」 「まさか、吸血鬼に血を吸われたとでも言うのか?」  半分嘲笑うように紫苑が言った。 静流は神妙な面持ちで黙っている。 「…って、冗談だよジョーダン!間に受けんなよ~」  静流の表情を和らげようと紫苑がぱんぱんと静流の肩を叩く。が。 「…そう、なんだ…吸われたんだ、僕は…僕はもう吸血鬼なんだ!」  言いながら現状を把握して行ったらしく、言葉の最後は叫びにも似ていた。 「おいおい、待てよしず。つまんねージョーダン言うなよ。怒るぞ」 「冗談なんかじゃないよ!!そう考えれば全てつじつまが合うじゃないか!僕が日光にひどく怯えたことや、紫苑を凄い力で突き飛ばしたこと、そして何よりこの穴!昨日の客が吸血鬼だったんだよ…」  顔中が涙で濡れている。一気に喋り終えると、生きる事を諦めたような表情になって焦点の合わない視線を投げている。 紫苑は何も言い返せなかった。もちろん信じたくない、信じられない。この世に吸血鬼という生き物が存在するなんて思っていないし、しかも最愛の静流がその毒牙にかかったとは、いくら事実だとしても信じたくなかった。

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