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【パラレル】招かれざる客 5
「――吸血鬼ィ?」
紫雲は笑いそうになったが、我が弟のあまりにも真剣な眼差しにかろうじて堪えた。
「しずがやられたんだよ…俺、どうしたらいいんだろ?」
「吸血鬼って、あの十字架やニンニクが嫌いなあれだろ?あんなのホントにいるわけないって。お前はともかく、静流くんらしくないなあ」
くすくすと紫雲が笑うので、紫苑は心底頭に来た。
「もういーよ!!バカ紫雲!」
「え、ウソ、吸血鬼?いやーん、カッコいいじゃない!静流くんの吸血鬼姿、一度見てみたいなー」
…紫龍も話にならなかった。
人に頼るのは無駄だ、紫苑はここで悟った。
部屋に戻ると、静流の姿が無い。
「しず?」
探してみるが、いない。
思わず外に飛び出してあてもなく探しまわったが、当然見つかるはずも無かった。
戻ってくるまで、じっと待つしかないのか…。
紫苑は自分の無力さを痛感した。
――戻ってくるまで?戻ってくるのか…?
部屋に入ると、静流がいた。
「しずぅー、どこ行って――」
くるりと振り返った静流の顔の下半分は、真っ赤に染まっていた。紫苑は目を大きく見開いたまま硬直状態。
「しず…血、吸ったのか?」
紫苑に話しかけられている事など知らないように、静流は満足げに舌なめずりをし、立ちあがって部屋を出ようとした。
「待て!誰の血なんだよ…」
自分でこの言葉を発するのが痛かった。
誰かの血を静流が啜っているのを想像すると、腹立たしいやら悲しいやら。
しかし当の静流は徹底して無視。
「この…いい加減何とか言えよっ」
静流に掴みかかると、また静流は紅い目で紫苑の手を振り解き、力任せに頬を打った。
紫苑は頬骨を打たれ、かなりのダメージを受けた。暫く起きあがれないでいると、静流がだんだん近寄ってくる。紫苑の前まで来ると、ゆっくりとしゃがみ、顔を近づける。
そして優しく唇を合わせる。紫苑も今までにない展開に、状況を忘れて恍惚としてしまう。
唇から首筋に顔が降りたところで、紫苑は我に返った。
「しず、俺の血だったらいくら吸ってもいいからな。他のヤツのは吸うな。俺のがなくなるまで吸ったらいいから…」
紫苑は自分から静流に腕を回し、自分の首筋を静流の顔の位置へ合わせた。
じっと目を閉じ、そのときを待つ。痛いのかな、あんな穴が開くぐらいだから痛いんだろうな、吸われたらやっぱり俺も吸血鬼なのかな…いろんなことが頭を過った。が、一向に血の洗礼は実施されない。恐る恐る目を開けると、静流は紅い瞳から涙を流していた。
「紫苑…ダメだよ、紫苑の血を吸うわけにはいかない。僕は絶対に、君の血だけは吸わない」
それだけ言うと、ぱふっと紫苑の胸元に顔を埋めたきり、動かなくなった。
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