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【パラレル】招かれざる客 6
その日、朝から紫苑は、普段全く無縁の図書館に足を運んだ。
検索用パソコンに向かい、『吸血鬼』と入力する。
結果が出た。…恐ろしい数だ。
小説を除く、全ての書物を探し始めた。広い図書館の中で、ジャンルばらばらの本を探すのは骨が折れる。
本を何冊も抱えて歩き回って、読む前に疲れてしまいそうだ、と思ったとき。
「お手伝いしましょうか?」
図書館の館員らしい男が声をかけてきた。
年齢は紫苑と同じぐらい、少し長めの前髪とメガネで目元ははっきりしない。ただ、ひどく優しい声だった。
「吸血鬼、お好きなんですか?」
にこやかな問いにしばし圧倒されたものの、紫苑はふと今自分が置かれている状況を思い出した。
「悪いけど急いでるから…ありがと」
足早にその場を去った。
吸血鬼に関する文献は、数ばかりで内容はどれも似たり寄ったりだった。
十字架が嫌い、退治方法は心臓を杭で貫く、火葬する、水が苦手、高貴で頭が良い…などなど。
しかし、こんな本を読んだところで、どうなるというのだ。静流を助ける方法は見つかるのか?助けられるのか――?
「おかえり。どこ行ってたの?」
昼間だというのにカーテンを閉め切って薄暗い部屋に、静流はちょこんと座っていた。
朝、我に返ったときは自分の血だらけの顔を鏡で見て失神しかけた。
せめて吸われたのが俺なら、紫苑は思った。
俺なら、もうすこし強くいられたのに。
「…しず、メシ食おっか」
コンビニで買ってきた弁当を静流に腹いっぱい食べさせる。
もう食べられない、と言った所で、紫苑は静流の両手、両足を縛った。
「紫苑…」
悲しそうな目で紫苑を見るが、静流も紫苑の意図がわかっていた。何も言えない。
「ごめんな、しず。これぐらいしか今日の所は思いつかなくて」
ストローで飲める水だけそばに置いて、紫苑は辛いながらも別室に移った。
静流が紫苑の血を吸いたくないと言うのならば、それを叶えてやらねばならない。
紫苑はシーツにくるまって、眠ろうと努力した。
しかし、眠れるはずもなく、ただじっと耳を澄ますことしか出来なかった。
暗闇でどれぐらい時間が経ったのかわからない。
ついついうとうととしていた紫苑は、奇妙な物音に目を覚まされた。
何かがうめくような声…いや、声か、それとも音なのか?それすらもわからない。
ただ一つ分かる事は、
静流以外の、何かがいる。
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