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【パラレル】招かれざる客 7
「しず!!」
考えるより先に走り出す紫苑。静流を寝かせておいた場所には、静流の姿はない。
ふ、と、我に返って見上げると、見たことのある男がいた。静流はその男に抱えられている。
あの日の、あの客だ。
二人は紫苑の存在などまるで目に入らない様子で、紫苑のほうを見ようともしない。
「こらお前!何やってんだ人ん家で!しず離せよっ」
眠り姫のように抱きかかえられた静流は微動だにせず、とろんとした瞳のまま心地よさそうに男に体を預けている。
「しず!こっち来いよ!なんで俺以外の男にそんなことさせんだよ……」
紫苑の言葉はまるで見えない壁でもあるが如く、二人の耳には届かなかった。
手立てを失い呆然とする紫苑の目の前で、男が牙を剥いた。
見覚えのある、紅い目。
「うそだろ…おい、やめろよ…」
紫苑の顔が引きつり始めた。
男は優しく静流の髪を引き、首筋を露に突き出させた。静流はと言えば、これからの快楽を心待ちにしているようにも見える恍惚とした表情で、その時を待つ。
「やめろ!!吸うんだったら俺の血吸えばいいだろ!なんでしずなんだよ…」
落胆した紫苑がその場にしゃがみこむのと同時に、男が入った時から開け放してあった窓からまた一人、男がやってきた。
男は吸血鬼から静流を素早く奪うと、紫苑めがけて静流を放った。
「あ、あんた…」
紫苑は静流を受けとめながら思い出した。
図書館の館員。
今朝、親切に声をかけてきたあの男。
「あとは僕に任せて、君はその彼を守るんだよ」
「…また邪魔しに来てくれたな」
憎々しく笑う吸血鬼。
「ああ。今度こそ終わりにしたくてな」
館員に笑みはない。
「何度やっても同じだ、お前に私は――」
優雅に語る吸血鬼に、館員が驚くべき早さで飛びかかる。
と同時に、首筋に刺さった2本の大きな牙。
「?!」
吸血鬼が露骨に狼狽する。
「なぜ…お前が…?」
「もう終わりだよ、あなたの栄華は」
―――オレハ、ワルイユメデモミテイルノカ―――?
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