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冬を迎えて

 悩んでる静流の横で、きっぱり、はっきり、大きな声で、紫苑が答えた。 静流は顔から火が出そうに恥ずかしくなり、全身鳥肌が立ち、手で顔を覆って俯いた。そんな様子に気づているのかいないのか、紫苑は調子に乗って質問に答え続ける。 「いやいや、そっちの話も聴きたかったけどこっちからは言い出しにくくて」 富田は嬉々としてその話に乗ってきた。 「でさ、どっちが攻なの?」 「んなモン俺様に決まってんだろ」 「ほぉ~」  いてもたっても居られない。どうしてそんなことまで他人に言いふらす――? 突然静流が立ち上ったかと思うと、紫苑に掴みかかった。 一瞬、「実演?!」と胸を躍らせたのは富田。  「なんか…ショックだよ。そんなデリカシーない奴とは思わなかった」 静流はあのまま紫苑の腕をつかみ、いつもの屋上まで引っ張ってきた。 「何怒ってんだよしず、俺らのこと聞きたいってゆーから…」 柵にもたれ、紫苑に背を向けたまま静流が返す。 「僕らの仲を隠そうとは思っていない、だから紫苑の見せつけにも付き合ってきたよ。だけど…僕ら二人しか知らないことがあったっていいじゃないか――」 紫苑は言葉もなく立ち尽くしている。 「きらいだ…紫苑みたいに、人の気持ちも考えないで行動する奴、大嫌いだよ――」 くるりと向き直ったかと思うと、静流は紫苑の横を素通りして、一人屋上を去って行った。 ”大嫌いだよ“―― その一言がどんなに人を痛めつけるのか、静流もまたわかっていなかった。  教室に戻ると、早速 「あ、静流、蒼城は?」 と声がかかる明らかに気に触ったと言う顔で静流が振り向きざまに言う。 「知りませんよ。別に何時でも一緒ってわけじゃないんだから」 非常に棘のある、冷めた口調で返事が返ってきて、富田は内心ビビった。今回はいつもの痴話喧嘩とは違う気がする。しかも原因は自分かもしれない…。そこへ追い討ちをかけるように、 「それからさっきのインタビュー、ボツにしてくださいね」 静流の言葉が矢のように富田に刺さった。  「おーい、蒼城、富田が探してたぞ」 そんな級友の声も聞こえないのか聞き流したのか、紫苑は振り返らずに歩いて行った。 初めて、『悲しい』という気持ちがわかったような気がしていた。  静流のどこが好きか、という質問に答えられなかった。静流は「根負け」だと言った。 やはり静流は、自分の強引な押しに否応なく流されていただけなんだろうか。  一目惚れだった。不当な力に絶対に屈しない態度が好きだった。その態度が、次第に変化してきているのも嬉しかった。  静流のためなら何だってやってきた。皆に認めてもらいたかった。それだけだった。  紫苑の目に、何年も浮かぶことの無かった、悲しい液体が満ちていた。

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