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アルバイト

 二月二十日は、特別な日。 「しーずちゃん♪」 朝もはよからナイテンションの紫苑。それに引きかえ…。 「…はい…」 重々しくくるうりと振り向く静流。 紫苑のハイテンションの理由がわかっているのだ。 「―――何が欲しいんです」 傍らでキャイキャイうるさく跳ね回る紫苑をいいかげん鬱陶しく思いながら、静流が問う。 やだ、わかった?とでも言いたげに、大袈裟に驚き、そしてすぐさま 「これ…」と静流の袖を引っ張る。 「わかりました。いつもと一緒ですね」 「ほんとに家にずっと置いてられたらな――」 と頬擦りしているところへ。 「うぉっほん!」 門前に立つ生活指導教師の咳払い。 「君らの関係についてはとやかく言わんが…登校中にいちゃつくのはやめろ」 目のやり場に困っているようだ。 「ハーッピバースデーツーユー  ハーッピバースデーツーユー  ハーッピバースデーディーアしおんちゃーん  ハーッピバースデーツーユー♪」  やはり、やると思っていた、この家族は。 ここ蒼城家では、今末っ子紫苑ちゃんの誕生パーティー真っ只中。もちろん静流もお呼ばれしている。 「父さんからのプレゼントだよ」 「これ龍からよー♪」 各々プレゼントを渡す。 「はい紫苑、これは兄ちゃんから。こっちはバイト先の――」 紫雲の言葉に必死で口の前で指を立てた紫苑を、静流が見逃すはずが無かった。  紫苑は静流を連れて部屋に戻り、プレゼントの開封を始めた。 父からはライダースジャケット。バイク好きの父らしい贈り物だ。 日舞の師匠である母からは、着物。 紫雲からのプレゼントは、穴もあけてないのにピアスだし、紫衣なんて脱毛器だ。 そしてこともあろうに、紫龍からはジッポライター…煙草はやめたのに。おかげでまた静流と一悶着。  「――で、バイトって?」 にこやかに問う静流。紫苑が硬直する。 「い、いいじゃんよ、そんなコト…」 と言いつつも後ずさり。 「話さなければプレゼント無しですよ」 う、と言葉を詰まらせ、ついに観念してぽつりぽつりと話し出した。 「――兄ちゃんが、男用クラブでバイトしてて…俺もたまに…ね」 上目遣いに静流の顔色を伺う。 「なんで、黙ってたんです」 「だって…校則違反だし…」 紫苑の消えそうな声に、静流の声が覆い被さった。 「…紫苑は、いろんな男にアイソ振りまいてたんだ?金の為に全然知らない人に媚び諂ってたんだ―――!」

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