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夏が過ぎゆく

 というわけで夏休み。静流は寮から実家に戻る。一人余分なおまけを連れて。 「ただいまー」 玄関で声をかけると、忙しい足音が近づいてきた。 「お兄ちゃんっ」 「樹ー♪大きくなったみたいだなー」 静流が可愛くてたまらないと言うように、弟の樹の小さな頭を撫でくりまわす。 「お兄ちゃん、いつき宿題みんな終わらせたんだ!だからいっぱい遊ぼうねっ」 樹のほうも、お兄ちゃん子丸だしで甘えている。 「しずちゃんお帰り。お友達も一緒なんでしょ?」 遅れて母が登場。するとすかさず、 「はじめまして。いつも静流くんにはお世話になっています。クラスメートの蒼城紫苑と申します」 バックに花が咲きそうな華麗な自己紹介に、母は紅潮するわ静流は驚きのあまりアゴが外れそうになるわ。 本当にわけのわからん、信用ならん奴め、と思っていたが、静流はあることを思い出した。  『てめーに恥かかせねーためだろ』 付き合い始めにも、そんなことがあった。人当たりがよく、礼儀正しい好青年を演じる紫苑。それはすべて静流のためである。  「ネコかぶって疲れたでしょ」 クスクス笑いながら労う。紫苑はかばんの中を整理している。 「てめぇ、面白がってんな?」 「いいえ。感謝してますよ。ウチの親は考えが固いし、友達のチェックは厳しいし、一度嫌われたら二度と来れないし。ましてや僕らの関係が――」 紫苑の唇が重なった。 「ダメだってば!!人の話聞いてんのか?!うちにいる間はダメ!」 顔を押しつぶさんばかりに押しのける。 「つまんねーっ」 紫苑は静流から離れた。  食事中も、母親と和気藹々で会話に花を咲かせる紫苑であったが、部屋に戻ると、静流からできるだけ遠くの隅で静流のタオルケットを嗅ぐ。 見るに見かねて静流が 「紫苑…うちの親、寝るの早いから…」  「さーておフロも入ったしぃー」 手の平を返したようにゴキゲンな紫苑。 「いつでもオッケーよ、みたいなー」 ……はしゃぎすぎ。 「…じゃ、僕もお風呂入ってくるから」 なんだか余計なことを言ってしまったかもしれない、そう思いながら重い足取りで静流は風呂に向かった。すると、母親がこっちに向かってやってきた。 「蒼城くんに何か貸してあげるものとかない?おなかすかない?」  それはいいのだが、何を考えているのか、母は普段めったにはかないスカートをはき、さっきまでスッピンだったのにキレイに化粧なんかしている。 紫苑を、『男』として意識しているのだ。 やはり女の目から見ても紫苑はカッコいいのか、なんて思う静流であった。  さて、風呂から上がって、静流もなんとなくその気になってきた。母はもう寝たようだ。 「紫苑」 ドアをそっと開けると、紫苑はすでに静流のベッドに入っていた。  気の早いヤツだ、とベッドに近づき、頭からかぶっているタオルケットをはがすと、なんと本気で寝ているではないか。 その寝顔がいつになく妙に静流をムラムラさせた。時折、 「ん…」 などと口の中でむにゃむにゃ言われた日には、たまらなくなった。  このまま紫苑の上に乗りかかって、無理にでもその気にさせてやろうか、と考えた時。 「しずちゃん」 母がドアをノック。 「ごはん早かったからおなかすくと思って…あら?蒼城くん寝てるの」 おにぎりを盆に載せてやってきた母が、眠っている紫苑を見てつまらなそうに言った。 結局、静流は地べたにタオルケット1枚で眠った。

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