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心の軋む音がする

 「静流ちゃん…紫苑と別れたってホント?」 バイト先であるホストクラブ。ある客が静流の耳元でこっそり囁いた。 「いやだな、どこからそんな話…」 顔では笑っているが、本当は一言一句たりとも口にして欲しくない話題だった。 「紫苑が怖くて言えなかったんだけど、僕ずっと静流ちゃんのこと…」 「はいっ、ありがとうございます、今後ともご贔屓に…」 頬を紅潮させて乗り出してくる客に、静流は知らず知らず後ずさりしている。 「…勿論別料金は払うよ…いいだろう?」 客の顔が数センチ、となったところで紫雲が助けに来た。 「お客さま、申し訳ございませんが静流はまだ学生でございます。それに、ご存知の通りそういった別サービスをさせていただいているのは正社員だけでバイトは…」 振られた腹いせもあって、客は逆上した。 「じゃ、じゃあなんで紫苑はいいんだね?!昨日同僚が紫苑に頼んだら即OKだったって言うじゃないか!だから…」 「紫苑は本人が納得しておりますので」 にこやかな表情を貼り付かせながらも、紫雲の心中は『いらんこと言うな、クソオヤジ』だった。 紫苑が別サービスに応じただって―――?! 静流は胸に降って湧く重苦しい澱のようなものを振り払うように言った。 「――僕も大丈夫です」 「静流くん…」 「さあ本人が納得したからいいんだなっ♪」 客は意気揚揚と静流を連れて別室へ姿を消した。  「紫苑!今静流くんが別サービス行ったぞ…」 スタッフルームで食事中の紫苑に、紫雲が慌てて報告する。一瞬こっちを向いたものの、紫苑はまた食事を再開した。 「かんけーねーじゃんよ」 「紫苑っ」 「るせーな!こんなのよくあることじゃんよ!!いちーちごちゃごちゃ口挟むなよ!」 さすがに温和な紫雲もこれにはキレた。 「お前が無理してるのわかるからだろ!なんでもっと素直にならな…」 紫苑の肩を無理矢理引っ張ってこっちを向かせて、はっとした。 「無理なんてしてねーよ!自分で選んだ結果なんだからな!」 紫雲の手を強く振り払ってまたもとの向きに戻る。  紫苑は、泣いていた。  そんな顔して『無理してない』って言うか…。 紫雲は心底呆れ、しゃくりあげてしまって食事が出来なくなってしまっている紫苑の背中を眺めている。 大バカ野郎だな…お前も、静流くんも。

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