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2.少し馬鹿な天邪鬼 4

廊下を歩いていると、柏木の姿が見えたので早速近付いて話しかけてみる。 「ねぇ。髪、長いんじゃない?」 すると柏木は思った通り立ち止まって僕のことを見上げながら睨んできた。 「はぁ? お前のが長ぇし」 そう言った柏木は目線を落とすと少しだけ黙る。 きっと、今どう言い返そうかを考えているに違いない。この沈黙から柏木がどう切り返してくるかを楽しみにしていた僕は、じっとその時を待っていた。 さぁ次は何を言ってくるのか……と思った矢先。 あろうことか柏木は不機嫌そうに僕を睨みつけただけで、そのまま歩いていってしまった。 何も言ってこないのか? いつもなら変な理屈を捲したてて、もう二、三言何か悪態ついてから行くのに。 さすがに髪はすぐには伸ばせないから諦めたのだろうか。 ……正直、ちょっとガッカリした。 今までの柏木の行動が自分にとって面白かったから今回も何か起こるんじゃないかって……。 漠然とした期待が大きすぎたんだろう。 よく考えたら単純そうな柏木に多くを求めるのは違う気がしたが、最近それが楽しかっただけに気分が落ちた。 つまらない。柏木はもっと楽しませてくれると思ったのに……。 ──しかし、変化は週明けに起こっていた。 週明け、登校してみると柏木が髪を切っていた。 目にかかる手前くらいだった髪は眉毛に少しかかる程度の短さになっていて、耳周りは特にすっきりと刈り上げられている。その変化はクラスメイトにもからかわれるくらいで。 「また失恋でもしたか? 何連敗目だ?」 「失恋じゃねーし、うるせーし」 短くなった髪はなんとなく彼を幼くさせた気がして、本人も恥ずかしいのか俯きながらしきりに前髪をいじっている。 いつもは真逆を行くくせに、こんなときだけ素直に従うなんて、思わず笑ってしまった。 そして一時間目が終わり移動教室の最中、柏木に声をかけてみた。 「柏木、髪切ったんだね。僕が言ったから髪切ったの?」 「ちげーよ。たまたまだよ!」 「そうなの? タイミングいいからそうかと思ったよ。随分切ったね」 「もうお前にとやかく言われる筋合いもないからな!」 髪を切ったのは僕のせいではないと言ったくせに、そのドヤ顔に思わず笑ってしまう。 「その言い方だとやっぱり僕の言ったことを気にして切ったみたいに聞こえるんだけど」 「は? なんでそうなるんだよ! ちげーし!」 つんけんした柏木はまた不機嫌そうに早足で歩いていく。 でも恥ずかしかったのか耳が赤くなってるのが髪を切ったからよく見えた。

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