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2.少し馬鹿な天邪鬼 5
──その日の放課後、本屋に寄って帰ろうとしたら携帯が鳴った。
画面には少し前に会った子の名前が表示されていて、そういえば最近は誰ともそういった行為には及んでいなかったことを思い出す。
男なので溜まるものは溜まるけど元々そんなに性欲が強いわけでもないし、女と遊ぶ気にもならなかった。
最近は柏木をいじる方が楽しかったし…───。
そんなことを思った矢先に電話が切れた。
ふと、柏木の不機嫌そうな顔が浮かぶ。
なぜかいつも僕には喧嘩腰の柏木だけど、不思議と気になるというか、つい何か言ってやりたくなってしまう。本当にからかい甲斐のあるやつだ。
髪を切ってきていたのは笑えた。
僕が言ったからって腹癒せにバッサリいくなんて本当に面白いし。
なんか…………可愛いなとか思って。
ハッと気付くと道の真ん中で思い出し笑いとかしてた自分が少し恥ずかしくなり、スマホをポケットにしまうと足早に家に帰ろうとした。でもすぐに足が止まってしまう。
どうしてだろう……。
柏木のことを思い出すと心の真ん中あたりが温かく感じるような、でもなんかざわつくような……。
この落ち着かないような感覚は初めてで自分でシャツの胸元をぎゅっと掴む。
すると、なんとなく柏木の不機嫌な顔以外も見てみたいような気がして、柏木が笑った顔を想像してみると。
一瞬だけ胸がどくんと跳ねた気がした。
なんだ? この感じ。
どうしてこんなにも柏木のことが気になるのだろう。
こんなに感情を乱されたのは初めてかもしれない。
…………好きなの、かな?
ふと浮かんだ言葉に自分が一番動揺した。
いや、僕も柏木も男だろう。
男が男を好きになるなんて、ありえない……。
でも、そう思ったとき妙にしっくりしたような感覚を覚えた。
まさか、これが好きって感情なのだろうか。
女の子が駄目な訳じゃない。でもセックスまでしても何の魅力も感じないし心も動かされなかった僕が、柏木の行動だけには胸を踊らせている。
たぶん男が好きってわけではないと思うけど、柏木だけは何か違う気がする。
これが、僕に媚びないから気になるだけなのか、好きだからなのか。
この時僕は、こんな気持ちになったのももちろん初めてだったので比べることも出来ず、ただ呆然と考えることしかできなかった。
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