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3.好きなのかもしれない 3

振り返るとそこには柏木千秋が立っていた。 でも、どうしてここにいるのか。何をしに来たのだろう。 「何か用?」 色々と疑問は浮かんだが、そう問いかけると柏木は眉間のシワをより深くした。 なんだかまたえらく怒っているみたいだけど、どうしたのだろうか。 すると柏木は凄い剣幕で僕に突っかかるように言ってくる。 「お前、マリエちゃんに何を言ったんだよ!」 ……マリエ? その聞き慣れない名前に首を傾げた。 「マリエって誰?」 「はぁ? さっきお前と話してた子だよ! なんで泣かせたんだ!!」 「あぁ、あの子。別に大したことじゃない」 このやり取りで柏木がなぜこんなに不機嫌になっているかを理解した。 何のことかと思えばさっきの子か。柏木はあの子のことが気になるのか。 ……そう思った瞬間、妙に胸のあたりがざわつく。 なんだこれ。 僕が自分の心の変化に対応しきれずに戸惑っていると。 「泣くなんて大したことだろうがよ!」 柏木はまた大きな声を上げた。 「柏木、うるさいんだけど」 「はぁ?」 これ以上玄関先で怒鳴られると近所迷惑になると思い、柏木を家に上げるために玄関のドアノブに手をかければ、また柏木が騒ぎ立てた。 「なんだ? 逃げる気か?」 は? なんだその言い草は……。 この理解しがたい胸のざわつきに少なからず苛々していた僕は、思わず冷たい目を向けてしまう。 「逃げる? どうして。玄関先で怒鳴られていると五月蝿いから、中に入ったら? って言おうとしただけだけど?」 「な、なんで、中に入らねぇといけないんだよ」 「近所迷惑になるから」 僕が家の中に入ると、「逃げるな!」とか言いながら柏木が玄関を開けて入って来た。 「何でそんな剣幕なのかは知らないけど。話なら僕の部屋で聞くから」 柏木の返事も聞かずに階段をのぼりはじめると、後から足音が付いてくる。 部屋に入ると柏木は部屋を見渡しながら何やらブツブツ言っていたが、僕が座ったら? と言うと談笑しに来たわけじゃないとまた声を張り上げた。 本当に五月蝿い人だ。 「そう。で、話って何?」 ベッドに腰掛けながら言うと、柏木はまた深く眉間にしわを寄せ僕のことを睨み付けた。 「お前、調子に乗るなよ」 「別に調子乗ってるつもりないけど」 「じゃ、なんでマリエちゃんを泣かせたんだ」 さっきからマリエ、マリエって……あの女の話ばかりでうんざりする。 どうしてそこまで気にかける。 泣かせたってお前の女なのか? って言いたくなる。

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