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3.好きなのかもしれない 4
僕はハァっと軽くため息をついて柏木を見た。
「彼女が勝手に感情を高ぶらせて泣いただけだ」
「はぁ? 俺はその理由を聞いてるんだ!!」
さっきから僕が何かを言えば怒鳴って返すばかりでそれしか芸がないのか?
あー、本当に五月蝿い。
さっきの子は柏木の彼女でもないくせに、あの女のために怒鳴る必要があるのか?
なんだか胸のあたりがムカムカとしてきた僕は不機嫌なままベッドから立ち上がる。
なんか、そういうの気にくわない。無性に苛々する。
こんな気持ちになったのは初めてだ。
自分の感情に生まれたこのギスギスした気持ちが何なのかを考える前に、僕は柏木の目を真っ直ぐに見ながら、一歩近付いた。
「彼女が僕を好きだと言った。でも、僕は興味がないと言っただけだ」
「マリエちゃんの告白を断ったのかよ!?」
僕の言葉に柏木は心底驚いたというような顔つきで目を丸くしたので、またイラっとして冷たく柏木を見つめる。
「そうだけど、何か問題が?」
そう言い放つと柏木は、今度はふるふると震え始めた。
そして拳をさらに震わせながら固く握りしめる。
「お前、何様だよ。どうしてマリエちゃんを振るんだ」
「興味がないんだからしょうがないじゃないか」
「でも、興味がなくてもあんな可愛い子から言われたら普通付き合うだろ?」
可愛いって、僕にも好みがあるんだけど。
何でもかんでも自分と同じと思うなよ。
それにしても話からして柏木はあの子が好きなはずなのに、これじゃまるで、僕とあの子を付き合わせたいみたいじゃないか。
言ってることが変な方向に行ってることに気付いていない柏木は、本当に馬鹿だと思う。
「なんだ? 柏木は僕が付き合ったほうが良かったのか?」
すると柏木ははたと気付いたのか急にかぶりを振り、複雑そうな表情を見せて今度は目を伏せた。
やっぱり変な奴。
そしてそういう表情がやっぱり気にくわない。
あんな子のことが好きだっていう顔。そんなの、見たくもない。
なんであんな女……。
あんな女なんかより、よっぽど………………。
───…あ、そうか。
そう思った時、やっと僕はわかったんだ。
このモヤモヤした気持ちが何なのか。どうしてこんなにも苛ついているのか。
それはとても単純なことで、気付いてしまえばそれ以上にしっくり来るものは無いように思えた。
相変わらず柏木は、何か考え事でもしているように見える。
だから、僕はゆっくりと柏木に近付いた。
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