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4.独占欲の強い策士 3

結局千秋は授業が終わるまで教室には戻ってこなかった。どこでサボっているんだろう。 気になって休み時間に探しにでも行こうかと席を立った時、教室にさっきの子がやってきた。 廊下で内川と少し喋っていたようだったが、そのあと教室を見回して目が合うとにっこり微笑み、ちょっと来てほしいと手招きして僕を呼ぶ。 どうやら上手く勘違いしてくれたらしい。 そして教室から離れるように少し歩いたところで周りに人がいないのを確認すると、上目遣いで僕のことを見上げてきた。 「あの、新藤くん……さっき、言ってたことなんだけど。新藤くんって……もしかして、私のこと……」 そこまで言わせたとこで彼女の唇にそっと指を当て言葉を遮る。 「千秋は大事な友達なんだ。だから、それ以上言わないで……」 核心を突かせることは一切言わずとも、含みを持たせて心持ち寂しそうに微笑むとその子の頬が高揚していくのがわかった。 きっと彼女の中では都合のいい解釈で僕とのストーリーが始まった、というところだろうか。 腹立たしい気持ちはあるものの、今は千秋の好きな人なわけだから僕の計画に利用させて貰おうと思う。僕に近付く手段として一度振った千秋を手放すわけがないと思うから、この子はきっと千秋を言いくるめるはずだ。 するとタイミング良くそこに千秋がやってきた。 おそらく内川に、教室にこの子が来ていたことを教えられ急いで来たのだろう。 「マ、マリエちゃん?」 「あ、柏木くん」 「なんか教室まで来てくれたって聞いたんだけど」 「……うん」 千秋が来たのと入れ違いに僕は教室へと歩いていく。 すれ違うときに千秋は一瞬不思議そうに見ていたけど、もう僕の用事は終わったから後は待つだけなのだ。 しばらくすると千秋は上機嫌で教室に戻ってきた。 十中八九、さっきの子に都合のいい関係でも提案されたのだろう。これは予想だけど、付き合えないけど友達ではいたい。みたいなそんなことでも言われたんじゃないだろうか。 こういう時の女はしたたかだ。 そのしたたかさに気付かず、まだチャンスがあるかもって浮かれている千秋もどうかと思うけど。 僕はじっと、次の行動が起こるまで待つことにした。

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