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第5章 仕掛けるなら甘い罠 1

千秋と遊園地に行く当日、いつもより早く目が覚めた。 目覚めも良かったし、頭もすっきりしていてなかなか良い朝だ。 どんな形であれ千秋と出かけられるのは嬉しいと、柄にもなくウキウキ心を弾ませ出掛ける準備をしている自分がなんか滑稽で笑える。 「あんたがにやけてるの久し振りに見るんだけど、どこか行くの?」 そう姉貴に声を掛けられて驚いたけど、そんなににやけていたのか。 「姉貴、時間大丈夫なの? もうすぐマサさん迎えに来るんじゃないの?」 姉貴の質問には答えずに時計を確認するふりをすれば、出掛ける時間が迫っていたようで姉貴はまた慌しく準備をしていた。 マサさんというのは姉貴の彼氏のことだ。 昨日から両親は年に一度の温泉旅行に出掛けている。だから姉貴はこれ見よがしに彼氏の家に泊まるらしい。 そういう僕も、今日は本気で千秋を落としにかかるつもりだった。 はやく君が欲しくて堪らなくて、もうあまり待ってあげられそうにない。 昨日の夜に作っておいたマフィンを簡単にラッピングして紙袋に入れて持って行く。 千秋はマフィンが好物らしい。以前、教室で千秋がマフィンが好きだと言っているのを聞いたことがあった。なんでも授業中に居眠りして寝言で呟くくらい好きなんだとか。 僕も姉も甘党だったから小さいときから2人でよくお菓子なんかも作っていた。 だからこのマフィンも手作りで自信作なのだが、千秋が黙って食べてくれるだろうか? しかもあの子に邪魔をされずに千秋だけに食べさせたいのだけど。 さて神様は今日、誰に味方してくれるのだろうか…───。 *** きっと千秋のことだから待ち合わせ時間よりだいぶ早く来るだろうと見込んで約束の30分前に待ち合わせ場所に着く。 それから10分くらいした頃に千秋の姿が見えた。 僕が手を挙げてにっこり微笑むと、千秋は眉間にしわを寄せて近付いてくる。 そして不機嫌そうに呟いた。 「はえーよ」 目を合わせようともしない千秋の顔を微笑んだまま覗き込むようにして顔を近付ける。 「千秋との初デートなのに遅れるわけないだろ?」 「はぁ? 俺とマリエちゃんとのデートでお前はコブだ!」 酷いよな。僕にとって、そのコブはあの子の方なのに。 「つれないな。僕は千秋とデートできるって楽しみにしてきたのに」 「うるせぇ。それに顔が近けぇ! うぜー!」 悪態をつく千秋はやっぱり可愛くてクスクス笑っていると、また眉間に深くしわを寄せていた。

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