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5.仕掛けるなら甘い罠 10

その強がった眼差しは僕の男心をくすぐるだけだ。 「千秋は男なんて御免なんだろ?」 「その通りだ」 「だったら男にキスされてもどうってことないよね?」 「は?」 「だから、僕とキスして千秋が何の反応も示さなければ君の勝ち。僕は諦めるよ。でも、千秋が反応したなら僕の勝ち。千秋を家に連れて帰る」 これは僕にとっても賭けだ。 千秋を手に入れられるか否かの賭け──。 しかし、勝負事になると突っかかってくる千秋のことだからすぐにやると言うと思ったが、今日の千秋はなかなか渋っているようで素直にやるとは言わない。 「なんだそのルールは」 その態度がなんとなく気に食わなくて、煽るように挑発的な目で千秋のことを覗き込んだ。 「やらないの?」 「なんでだよ」 「反応しそうで怖いから嫌?」 「ちげーよ」 千秋のことは、わかってきたつもりだよ。 君が天の邪鬼だってことも、素直じゃないってことも。 だから、誘導するように追い詰めていく。 「千秋は僕に借りがあるよね? 一度くらい僕の言うことを聞いてくれても良くない?」 「借りって何だよ!」 「まったく、どうして君はそうなんだろうね。彼女とここに来れたのは誰のお陰かな? 僕が一緒じゃなかったら来れなかったよね?」 「…………」 千秋は黙り込んでしまった。 どうしてわかっているのに、あんな子のことが好きなんだろう。 僕ならもっと甘やかして、愛してあげるのに。 そして、まだ黙ったままの千秋に囁くように言ったんだ。 「10秒キスして何もなければ千秋の勝ち。千秋は僕に勝てばいいだけだよ。僕に興味がないなら簡単なことだよね?」 「10秒?」 そう言いながら眉を寄せた千秋に、10秒もあったら反応しそうで怖いのかな? とでも言うように「5秒にする?」と聞いたら。 「べ、別に10秒くらいどうって事ない!」 千秋は慌ててそう言った。 でもね、千秋。 それはキスしていいって合図になるんだよ。 「わかった。じゃあ10秒ね」 そして僕はね。 キスしたら、もう帰すつもりもないんだ。 だから千秋を連れて帰るのはもう決定。 そうなれば、千秋にキスしたくてたまらなくて……、ゆっくり顔を近づける。 「おい、待てよ。ここで!? 誰かに見られる……」 「誰も見てないよ。暗くなってるんだし」 すっかり日が沈んで真っ暗になっていたから隣の観覧車の様子すらわからない。 僕は千秋の肩に手をかけてゆっくりと顔を近付けた。 少し緊張してるようで、可愛い。 最高に気持ちいいキスに……してあげるね。 今日のことがいつまでも忘れられない思い出になるように。

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