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第6章 溺れてしまえばいいのに 1

手を引いて歩いていると千秋は焦りながら足を止めた。 「ちょっと待って、家に電話しないと。親が駄目だって言ったら帰るからな!」 そう言うと千秋はポケットからスマホを取り出して家に電話をしはじめる。 ───…が、次の瞬間。 「こういうときは駄目って、空気読め!」 と訳の分からない八つ当たりをして電話を切っていた。 おそらく、あっさり了承されたのだろう。 そうしているうちに僕の家に着いた。 なんとなく緊張している様子の千秋だけど、すぐに何かされるとか思ってるんだろうか? そんなに意識されると僕も期待に応えないと、と思ってしまうけど。 まずは、緊張を解してやるためにもご飯でも作ろうかな? 僕もおなか減ったことだし。 「おなか空いてない? 何か作ってあげようか?」 すると千秋も頷いたので、リビングに通した。 千秋に何がいいか尋ねるとオムライスが良いと言ったので、千秋をリビングのソファに座らせて僕はキッチンに向かう。 オーソドックスなオムライスもいいけど、ストックにデミグラスの缶があったはず。それを使おう。 テレビを見ている千秋の後ろ姿を眺めながら調理にかかった。 玉ねぎを切ったり鶏肉を炒めてケチャップライスを作る。 レトルトのデミグラスじゃ味気ないので冷蔵庫にあった野菜や、ワインなんかを使って少し手を加えたりしてみた。 小さいときから両親が仕事で留守がちで姉と交代で食事を作っていたので、料理は好きだ。 マフィンの時のように千秋が美味しいと言ってくれたらいいんだけど。 さて、千秋の胃袋は掴めるだろうか? 「千秋、出来たよ。家にあるものだけで作ったからどうかわからないけど」 しばらくしてオムライスが完成する。見た目は今日も上手く作れたと思う。 「暖かいうちに食べようよ」 「お、おう」 そう言って千秋がオムライスをスプーンで口に運んでいく様子を見守っていた。 味はどうだっただろう? 千秋の口にあったかな? そんなことを思いながら見ていたら、千秋の表情がぱぁっと華やいでいく。 「すっげー、うまい!」 すると千秋はガツガツとかっこみ、美味しそうに食べてくれてすごく嬉しかった。

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