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6.溺れてしまえばいいのに 9

なんでもいいから全部知りたい。 そうだな。例えば……。 「どうして、名前……千秋なの? 女の子みたいって言われない?」 「女みたいとか言うな!」 女みたいと言われたことが気に障ったのか千秋が大きな声を上げたが、その表情を見て何か由来がありそうな気がした。 「理由があるなら、知りたい」 そう言いながら僕がうなじにそっとキスをすると、千秋の体がビクついて可愛くてクスクス笑ってしまう。でも、僕が笑ったことでまた千秋の機嫌を損ねてしまったみたい。 「そんな態度じゃ教えてやらねぇ」 「ごめん。教えて」 千秋が背中を向けていることを良いことに、笑いを堪えながら千秋に謝った。 本当に和むくらい可愛いなって思っていたら、千秋がゆっくりと口を開いて、きっと理由があっても教えてくれないと思っていたその名前の意味を教えてくれたんだ……。 「……千秋は“千年”の意味」 千年? と僕が首を傾げていると千秋はそのまま続けた。 「こう見えても、生まれたては体が弱かったらしくて、親父が長生きできるようにって四字熟語の“千秋万歳”から千秋とつけたんだ。千秋万歳って長寿を祝う意味だろ? さすがに千年は生きられないだろうけどな」 由来を聞いて幼い頃の千秋を想像しながら、千年という想像も出来ない長い年月を考えた。 そっか、千秋って名前にはそんな意味があったのか。 すると不思議と強く抱き締めたい衝動にかられる。 名前の由来が解ると余計に愛おしく感じていっそう強く千秋にまわした手に力を込めた。 「ちょっと、新藤……苦しい」 「僕もこれからは千秋の名前を呼ぶたびに祈るよ」 「はぁ? そんなんいらねぇよ。今は超健康体だし」 「千秋は僕に祈られていたらいい」 「意味、わかんね……っん……」 そう言って振り向いた千秋の口を塞ぐようにキスをする。 今日はいったい何回千秋とキスしただろう。 でも、何回キスしても足りない気がするのは何故だろう。 「っふ……ふ、不意打ちは卑怯だ!!」 そう言って千秋はまた僕に背を向けた。 怒らせちゃったなって思いつつ、こうやっていられることが本当に幸せに思えた。 そして千秋を撫でながら暫くすると規則正しい寝息が聞こえてきて、また目を細める。 千秋が僕の腕の中で眠っているなんて。 そっとまた千秋のうなじにキスをして、その夜は千秋を抱きしめたまま僕も眠りについた。 ─────… ────

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