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7.動き出した、朝 2
そして朝ご飯も千秋は美味しそうによく食べてくれた。
クロワッサンも手作りだと教えると、驚いた顔をしながらも口に運んでいく。そして机の上に並べられているものをじっと見ていた。
「お前って料理うまいんだな」
「ありがとう」
その様子を向かいの席から頬杖ついて眺めていると、クロワッサンを食べながら言いにくそうに千秋がボソッと呟く。
「……なんで、最近やけに甘いんだ?」
そう、上目遣いになってほんのりと頬を赤らめながら言う千秋。
でも何のことを言ってるのかと僕は首を傾げた。
「ん? 何、それ」
すると千秋は少し眉をひそめるとばつが悪そうに話し始める。
「……前は俺に小言しか言わなかったのに、最近はなんで優しいんだよ」
思いもしなかったことを言われて一瞬きょとんとしてしまったが、確かに考えてみれば小言ばかりと思われても仕方なかったかもしれない。
「前はそうでも言わなければ、君と話す機会なんてなかったからね。今はもう、そんなことしなくてもこうして話せるだろ?」
「そんなことのためにいろいろ言ってきていたのか!?」
「君は校則違反の宝庫だからね。ネタには困らなかった」
わけわからないとでも言いたげな顔をした千秋は、また眉間にしわを寄せ難しそうな顔をすると牛乳を一気に飲み干して席を立った。
「食ったから帰る」
突然そういって立ち上がったものだから慌てて僕も席を立ち、リビングのドアを開けようとした千秋の手を掴んで軽く引き寄せた。
「何すんだよ」
「もう帰るつもり?」
「だから、帰るって言っただろ?」
「嫌だな……」
ツンケンした態度なんて見慣れているはずなのに、家に帰ると言われるだけで胸が締め付けられるように寂しく思ってしまう。
今日はまだ始まったばかりなのにまだ帰したくないと、千秋を壁に押し付けて顔を近づけた。
「まだ返事を聞いていない」
どうにかして引き留めたい。
少しでも長く、少しでもとどまらせたい。
すると千秋は慌てた様子で顔を上げる。
「へ、返事? 何の返事だよ」
「僕の告白に対する返事。僕は何度も君に好きだって言ったよね」
すると千秋は心底驚いたような表情をみせた。
でも、そんな顔をされると僕の告白は届いてなかったのかと不安になるじゃないか。
「何? その顔は……僕のことは好きじゃない?」
「そ、そんなの知るかっ」
「返事してくれるまで帰さない」
「はぁ!? 監禁でもする気かよ」
監禁か……そうすれば千秋はうんと言ってくれるんだろうか。
なんて、そんなことを普通に考えてしまう自分の思考が少し怖くなる。
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