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7.動き出した、朝 4
俯いて考え込む千秋についばむようなキスをした。
余計なことなんて考えずに、僕のことだけ考えればいいのに。
すると勝手にキスされたことを怒るように千秋が顔を上げる。
「お、おいっ……」
「もう、待つのも疲れたから」
そして頬を赤らめた千秋がまた何かを言う前に、塞ぐように唇を合わせた。
舌を差し込み、だんだん深くなるキスにまた千秋の力が抜けていくのを感じて胸が鳴る。
千秋とのキスは気持ちがいい。
次第に千秋からくぐもった声が漏れ始めて、僕のキスでそうなる姿はとても可愛いと思った。
「ん、……っふ、んっ」
そして、昨日のことをもっと思い出してくれたらいいのにと、キスをしながら千秋の中心部に触れ、撫でるように触ると。
「ン───っ、……んっ…っ」
昨日の快感に体が反応したのか、僅かに体を震わせる。
そして舌が絡み合う度にクチュクチュと水音をダイニングに響かせた。
舌を吸い込みながら甘噛みし、千秋の力はもう限界で座り込みそうになった瞬間……。
ガチャガチャっと玄関を開ける音がしたかと思うと。
「たっだいまぁ──! おーい、誰かいないの?」
その声に驚いた千秋が、大きく体をビクつかせた。
チッ、姉貴が帰ってきやがった。
彼氏の家に居着いてしまえば良かったものを。
そんなことを思っていると千秋はその隙に僕の腕の中からスルリと抜け出してしまう。
そしてタイミングの物凄く悪い姉貴がダイニングに入ってきた。
「あ、修平いたんじゃん。あれ、友達?」
頷きもせずに無言でいると姉貴の視線が千秋へと移った。千秋はというと姉に見とれているようにも見え、その態度に少しイラッとしていると姉貴が千秋に顔を近づける。
「私、修平の姉で瑞希 っていいまーす。何君?」
オイ、姉貴も顔が近い!
「お、俺は柏木千秋です」
「千秋くんかぁ、可愛い~」
「姉貴もう行けよ」
僕の千秋に馴れ馴れしくされて不機嫌な顔をすると、姉貴は不思議そうに首を傾げた。
するとそのどさくさに紛れて。
「新藤、俺帰るから。朝飯までありがとう」
千秋が逃げるように帰り支度を始めてしまったので、引き留めようとした瞬間、姉貴に先を越されてしまう。
「えー、千秋くん帰っちゃうの? お姉さんと遊ぼうよぉ」
「えっと、それはまた今度」
何がまた今度なんだ。
千秋は玄関まで急いでいってしまう。嫌だ。まだ帰したくない。
そう思いながら追いかけるが、玄関では千秋が慌ただしく靴を履いていた。
「ふ、服は今度返すから。じゃあな」と千秋が振り返った。
……それは、ただただ切なくて。きっと僕は情けない顔をしていたと思う。
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