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7.動き出した、朝 5

そして千秋はドアを開けて振り返ることなく走りだし、その背中が視界から消えた。 逃げるように千秋が出て行った瞬間、火が消えたみたいに暗く寒くなった気すらする。 がっくりと肩を落としながらダイニングに戻ると姉貴が残ったクロワッサンを食べながら、ニュースを観ていた。 「このクロワッサンいつ作ったの?」 「一昨日」 美味しいねー、なんて暢気に言いながら今度は棚からコーヒー豆を取り出しにっこりと微笑んで見せる。 「千秋くんって友達? あんたが友達を家に呼ぶなんて珍しいね。ってか、初めてじゃない?」 「そう? 姉貴、千秋に色目使うなよ。気持ち悪い」 「あんたねー! 姉に向かってなんなの! にしても、あんたにも友達がいて安心した……って、ちょっと修平!」 姉貴の話の途中ではあるが、リビングのドアをしめて自分の部屋に戻る。 階段を上っている途中に「コラ、修平!」とか聞こえてきたが無視だ。 姉貴とは趣味思考がものすごく似ている。昔からそうだ。 だから出来るだけ千秋を姉貴に会わせたくなかった。さっき、千秋だって姉貴に見とれていたし。 モヤモヤしながらベッドに横になり寝返りをうつと、ふと千秋の匂いがした気がした。 昨日の夜はあんなに近くにいたのに、僕の腕の中に収まった千秋が今はもうここにはいない。 ベッドも千秋のいたところは既に冷たくなっていて、体温は簡単に逃げてしまう。 昨日あんなに抱き締めたのにもう足りなくなっていて、千秋を腕の中に閉じ込めたい。 そして、はやく気づいて欲しい。君が気付いてないその気持ちに。 どうか残り香が消えてしまう前に、僕の近くに来て欲しい。 軽くため息をつきながら仰向けになったときスマホがメッセージを受信する音が聞こえた。 しかし、ディスプレイにはあの女の名前が出ていたので無視した。 あの後、千秋はあの女にメッセージを返したんだろうか。きっと、嬉しそうな顔をしながら返したんだろうな。 そんな重たい気分をすっきりさせるために、千秋の脱いだ服を洗濯しようと手に取るとベッドに残っていた匂いと同じのが鼻を掠めた気がして、思わず千秋のシャツの匂いなんてものを嗅いでしまう。 途端にハッとして手近にあった紙袋に千秋の服を詰めてベッドに座り直したのだが、やはり洗濯するのは後にしてどうやったら千秋が僕を意識してくれるのかを考えるのが先だと思った。 やはりここは……押して駄目なら引いてみる。 これしかないよな。

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