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第8章 嵐の前の静けさ 1
この日、僕はある決意をして学校に向かっていた。
僕は心を鬼にする。絶対的に欲しいものを手に入れるため。
手に入れる為なら手段は選ばない。
だから、今日から徹底的に千秋を無視することにした。
ありきたりな手法ではあるけれど、今まで追われてものが急に自分に関心がなくなったら……気になってしまうものだ。
千秋は単純だから最初はからかわれていると感じて物凄く怒るだろう。
そして、時間とともに本当に自分に関心がなくなったのかと不安になればいい。
そんな風に僕を気にしてくれたらいい。
そう思って決意したんだ。
教室に着くとまだ千秋は来ていなかった。
席に座って暫くすると後ろのドアから千秋が教室に入ってきて、自分の席に鞄を置くなり僕の席に近付いて来たことがわかった。
「し、新藤……」
ざわついた朝の教室で千秋が僕の名前を呼んだけど聞こえない振りをした。
「おい、新藤」
もう一度呼ばれるけど同じ。
すると千秋は僕の席の前に回り込むようにして立って呼びかけた。
「新藤、昨日はこれありがとう」
そう言って千秋は紙袋を差し出してくる。
きっとその中には僕が貸した服でも入ってるのだろう。
……でも、あえて目線も向けず、千秋の存在そのものに気付かないかのように無視を決め込んだ。
するとやや弱々しくなった声が響く。
「なぁ……」
千秋が何かを言いかけた瞬間、廊下の方から僕のことを呼ぶ声が聞こえた。
「新藤、ちょっといいか?」
振り向けば隣のクラスの委員長で、何の用事かは知らないが手招きしているので丁度良い。
「どうかした?」
これ見よがしに笑顔で教室を出ていきながら、横目で千秋の様子を伺う。
案の定、千秋はぶるぶると震え出すと持っていた紙袋を僕の机に投げつけるようして、ドスドス音でも鳴りそうな勢いで自分の席に戻っていった。
その顔は明らかに不機嫌で、隣の席にいる内川が喋りかけるも八つ当たりしてるように見え、何の理由もなく八つ当たりされている内川は気の毒だと思うが、第一段階は成功したみたいだ。
その日は一日中機嫌の悪かった千秋だったが、その機嫌の悪さは僕が無視すればするほどに増していくことになるのだった。
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