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8.嵐の前の静けさ 2

そして一日中徹底的に無視された千秋は、次の日にある秘策を考えてきたらしい。 秘策と言っても千秋らしい単純な発想のものだったけど、彼の考えではこれで僕が話し掛けないわけがないと思っていたに違いない。 それは朝、僕が登校してきた時の話だ。 昇降口で上靴に履き替えていると視界の端で千秋と内川が何やら言い合いをしているのが見えた。 少し気になって気付かれないようにそれとなく見てみると、千秋がワイシャツの下に着ている派手なTシャツが目に入る。 (何、あれ) それが視界に入った瞬間、思わず笑いそうになった。 それは笑いを堪えなければならないほど、柄というより色んな色をこれでもかとぶつけたような、なんとも言いがたいとにかく派手なTシャツだったからだ。 校則にはにワイシャツの下に色つきのシャツを着てはいけないという項目がある。 今まで幾度となく指摘しては千秋が突っかかってきた件なのだが、今回のシャツは今までになく派手だった。 一体、あんなのはどこに売ってるんだろう。そっちの方が気になる。 やはりこの天の邪鬼はただ者じゃない。 そんなことを思いながら、今まで注意されることを嫌がっていたくせに、今日は注意されたがってわざわざ着て来たのかと思うと昨日の無視がかなり効いたんだなと、成果に満足した。 そんな千秋を心の中で愛でながら僕は教室に向かって歩みを進める。 すると千秋はとんでもなくドヤ顔で僕の前に立ちはだかった。 しかし、勝ち誇った顔で僕の前に立つ千秋には悪いけど、まだ作戦の途中だからとあっさり無視をすれば、通り過ぎた瞬間に千秋が驚きを隠しきれない顔で振り返ったのがわかり、あまりの反応のよさにバレないように笑ってしまった。 本当にこういうところが可愛いんだ。後先考えずに目先のことだけで行動してしまうところが。 きっと千秋は僕に見せる為だけに派手なのを選んで来たに違いないが、きっと後で生徒指導に捕まるはず。 それはとても面倒なことなのに、そこまで考えないやつだから。詰めが甘い。 まぁ、そんな馬鹿なところも含めて可愛いんだけど。 なんて思いながら歩いていると遠くから生徒指導の山瀬の声が響いてきた。 「か~し~わ~ぎ~、なんだそのシャツは~」 ほらね。って思いながら階段を上っていく足取りはいつにも増して軽く感じた。 そして、それからも僕は千秋を無視するとともにいろんな事をして揺さぶりをかけた。 千秋の校則違反に何も言わなくなったのに加え、勉強を教えるって名目で女子をはべらせてみたり、千秋と一番仲の良い内川に話しかけてみたりとそれはもう色々とやってみた。

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