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8.嵐の前の静けさ 5

そして僕の姿を見つけると、笑顔で近づいてくる。 「新藤くん、帰ろ」 なんて首をかしげながら言われてもなんとも思いはしないのだが、千秋たちがその場面を見ていることに気付いたので微笑んでおいた。 靴を履き替えて、彼女と帰ろうとすると痛いほどの視線を後ろから感じる。 ちょうど彼女が僕の制服の袖を掴んだので、千秋に対してもう一押ししておこうかと笑顔のまま彼女の腰に手を回してみたりして歩いていていくと、彼女は一瞬、戸惑ったように頬を赤らめたもののまた都合よく解釈したのだろう。 途中からは、自意識過剰で傲慢な女の顔になっていた。 そしてどこまで歩いても刺さるような視線は消えることはなかった。 千秋はどのように感じているのだろうか。 怒っているだろうか。 焦っているだろうか。 好きな女を取られたと思っているだろうか。 どうしてって疑問に感じているだろうか。 自分に興味がなくなったのか……って少しでも不安になっているだろうか? 下駄箱からまだ十数メートルしか歩いていないけどなんて事のない話を彼女はずっと続けている。 そして生徒通用門まであと数メートルとなったところで、後ろからドタバタと走ってくる足音とともに怒鳴るように名前を呼ばれた。 「おい! 新藤っ!!」 その声には苛立ちがにじみ出ていた。 僕は反応しないでいたが、隣の彼女は驚いたように振り返る。 それでもなお、僕自身は何も気に留めていないような素振りで歩き続けていると、彼女も後ろを振り返りながらついてきた。 「柏木くんが呼んでるけどいいの?」 彼女は不思議そうな顔をしていたが構わずに歩いていると。 「おい、新藤! 待てよ! 呼んでるだろ!」 今度は僕の腕を掴んで引き寄せられる。 ゆっくりと振り向けば、怒りや憤りやらいろんな表情が入り混じった千秋の顔がそこにあった。 だから、千秋との関わりを他と差別化できるように、できるだけ表情を出さないようにして彼と目を合わせる。すると千秋の眉間のしわが一層深まった気がした。 追い討ちとばかりに隣にいた彼女に笑顔で声をかけた。 「マリエちゃん、ちょっと待っててね」 彼女はまた頬を赤く染めて頷くと、先に生徒通用門の近くに歩いていってそこで僕を待つことにしたようだった。

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