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8.嵐の前の静けさ 7
*
帰宅してその辺に鞄を投げ捨てて、そのまま自分のベッドに倒れ込むように寝転ぶと、大きなため息が部屋中に響き渡った。
体がだるい。今日はいつも以上に疲れた。
寝返りを打っても当然ここには千秋の残り香はもう残っていない。
(千秋……)
思い出すのは最後に見た千秋の力の抜けた眼差しで、そんな顔をさせているのは自分のくせに、あまりにもその顔は可哀想で切なくて胸が苦しくなった。そして同時に胸の中では欲望が渦を巻く。
泣きそうになって可哀想に。
早く抱きしめてあげたい。
早く優しくしてあげたい。
たくさん甘やかして、どろどろになるまで愛してあげたい。
だから、早く僕を求めて欲しい。
独占欲なのか支配欲なのか、執着なのか依存なのか。
そんなのわからなくなるほど、既に僕は千秋が足りなくておかしくなりそうなんだ。
ゆっくりベッドから起き上がると床においてあった紙袋を手に取り、中のものを取り出した。
それは千秋が置いていった服で、それを千秋のように抱きしめればほんのりと千秋の匂いが鼻を掠めた。
「……ヤバいな、これ」
自分が思っていた以上に僕には千秋が不足していたようで、そのTシャツに残った匂いだけで、ズボンの前が圧迫された。
匂いだけでって、思春期かって自分に苦笑いしかできない。
でも、同時に思い出すのはあの日の千秋の姿で。
その姿を思い出すと、それに反応して下半身がさらに固くなっていくのがわかる。
今まで、自分は性欲が薄い方だと思っていた。
ここ数年、自分で処理したことってないと思う。
それでも溜まった性欲は誰かと寝て済ませるのだが、それも1週間から2週間に1回で充分だったし、下手すればそれ以上長い期間空いても問題ないくらいだったのに。
千秋に触れてからというもの、そのバランスがおかしい。
そのTシャツに軽くキスすれば、千秋の艶かしい顔が思い出された。
「はぁ……重症だ」
そんな疼きを篭らせる体を慰めるように、ベルトを緩めチャックをあけ下着の中に手をしのばせる。
Tシャツ片手に勃たせてるなんて、頭がおかしくなったとしか言いようがないがもう止められそうになかった。
それくらい僕は欲情していたんだ。
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