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8.嵐の前の静けさ 9
早めに風呂に入って夕食でも作ろうかと思った矢先に、姉貴が帰って来た。
「ただいまー。あれ、今からご飯? まだならお姉ちゃんが作ってあげようか?」
よくわからないけど姉貴は上機嫌のようだ。
作ってくれるというならばそうしてもらった方がありがたかったのでお願いすると、姉貴はニッコリ笑った。
「お姉ちゃんに任せて」
よくわからないけど、機嫌の良すぎる姉貴っていうのも……なんか、不気味だ。
「修平ー、洋食と和食どっちがいい?」
「洋食」
「肉と魚どっちがいい?」
「肉」
なんとなく直感的に答えてテレビを見ていると、香ばしい香りがキッチンから立ち込めてくる。
今日は揚げ物のようだ。
姉貴は料理が上手い。そして出てくるまでがとにかく早い。
小さいときからやっているっていうこともあるが、姉貴曰く僕を育てるために覚えたらしい。
暫くすると、ミラノ風カツレツというのが出来たという。
なにやら、カツレツのパン粉の中にパルメザンチーズを混ぜたらミラノ風とやらになるらしい。
大きなプレートには型抜きしたハーブライスとサラダが添えられて、ポトフとデザートに即席のりんごパイまで付いてきた。
手際の良い姉貴はこれだけの種類をいっぺんに短時間で作ってしまう。
だが、今日は珍しくデザートまで付いていた。
そして、料理中も今現在も鼻歌混じりだし今日はやっぱり何かあったのか、機嫌がよすぎる。
「今日、いいことでもあったの?」
椅子に座りながら姉貴に尋ねるとわかりやすく目を輝かせた。
「フフフ~。内緒~」
我が姉ながら、面倒くさい。
「何? マサさん絡み?」
「まぁね」
マサさんというのは姉貴の彼氏のことで、上杉 政宗 という戦国武将の良いとこ取りのような名前をしている。
ちなみにマサさんは4人兄弟の末っ子で、お兄さん達は上から上杉信長、兼続、三成というらしいから、親御さんが戦国武将好きなのは明らかだ。
「ふーん」
でもやはり姉貴は上機嫌な理由は言わないつもりのようで、僕も特に詳しく聞くつもりもなかったから適当な相づちをうちながらカツレツを口に運んだ。
サクッとした衣からチーズの香ばしさが口に広がる。これ凄く美味しい。
今度、僕も作ってみようと思っていたらグラスに入った冷たい水を飲んだ姉貴が踏み込んだ質問をしてきた。
「ねぇ、修平は彼女とかいないの?」
「いないよ」
「あんたってさ、1回も女の子を家に連れてきたことないよね。まさかモテないの? 私の贔屓目を差し引いてもあんたって結構イケてると思うんだけど」
「大きなお世話。他人に興味が薄いだけ」
「……昔からそういうとこあるけどね」
そう言って姉貴はため息という感じではないけれど短く息を吐いた。
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