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8.嵐の前の静けさ 10
姉貴は少し呆れ顔のままカツレツを口に運んでいく。
それにしてもサクサクした食感にチーズの風味が効いているカツレツとハーブライスの組み合わせは抜群だ。
きっと姉貴はマサさんの胃袋をがっちり掴んでいるに違いない。
「胃袋掴めば男って逃げないものなの?」
「政宗は逃げる気ないみたいね」
と言ってクスクス笑うので俺もつい笑ってしまう。
「まぁ、彼女はどうでもいいけど、ちゃんと友達くらいは作りなさいよ。でも彼女が出来たらお姉ちゃんには紹介してね」
「はいはい」
軽く流すと姉貴は呆れたような声を出した。
「またそうやって適当に流すんだから。そうだ、この間の千秋くんだっけ? 修平が初めて家に連れてきた友達。また連れてきなさいよ。お姉ちゃんがご飯作ってあげるから」
「いいよ。僕が作るから」
すると姉貴はポトフを口に運びながらフフフと柔らかく笑った。
「家族以外自分の領域に入れないくせに、千秋くんは入れてご飯まで作ってあげるなんて、よっぽど心を開いているのね」
そういわれて一瞬墓穴を掘ったかと思ってドキッとしたが、その直後「お姉ちゃん安心した」と続けたから少しだけほっとする。
姉貴はいつまで経っても僕のことが心配なのだろう。
今まで、いろんな人が僕に近寄ってきては自分の利益のためだけに僕を利用しようとしていたことを知っている。
姉貴はそんな人に対しても気にしてくれているのだからありがたく思えって言ったけど、僕自身がそんな人たちに嫌悪感を抱いていることも知っていたから気になっているのだと思う。
千秋は特別だ。それは間違いない。
……ただ、姉貴が思うような関係とは少しずれてはいるけれど。
千秋には心を開いている。開けると感じている。
心の鎧や、分厚い仮面をはがし素の自分でいることがどれだけ楽なことなのか教えてくれたのも千秋だ。
そして本当の自分を誰よりも見て欲しいし、理解してもらえたら嬉しいとも思う。
だから、はやく千秋に求められたい。
どうか僕のことを気にかけて、好きになって欲しい。
僕のことを好きになってくれたなら、僕だって全身全霊でそれに応えるし愛してあげたい。
他なんか目にも入らないくらいに愛して甘えさせて僕に溺れて欲しいとさえ思うなんて……。
自分でも自分が怖くなるけど。
でも、僕は日に日に君が好きになっていく気がするんだ。
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