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第9章 オレンジ色のキミ 1
次の日も、また次の日も、しんどい日々は続いた。
僕は千秋に対しての無視をやめないし、一緒に帰りたくはないがあの子とも門をでて最初の角まで一緒に帰る。
千秋も相変わらず毎日僕を睨みつけては、以前のように注意させたいのかわざとシャツを出して目の前を歩いてみたり、時にハンカチを落としてみたりしていた。
しかし、その落とし方があまりにも下手だったために内川に拾われてしまい、さっきから理不尽に八つ当たりしている。内川も気の毒だ。
そして、今日はわざと僕の体操服を隠したらしい。
5時間目の体育の前になって教室のロッカーに入れていた体操服がないことに気付いた。
体操服の行方は気になったが、ちょうど体育という気分でもなかったので保健室でサボればいいかくらいに思っていた矢先。
わざとらしい千秋の声が後ろから聞こえてきた。
「あれー、おっかしいなぁ。こんなところに体操服が! あ! 新藤って書いてある。これ新藤のなんじゃね?」
あまりの棒読みに、うっかり笑いそうになってしまう。
なんだそれ。
そんなんじゃ、文化祭の劇でも木の役しか出来ないぞ。
心の中で笑いながらも、そうまでして僕と喋りたいのかと内心嬉しく思いながら振り向こうとしたそのとき、クラスの女子が声を上げた。
「私、さっき柏木が新藤くんの体操服を隠すの見た!」
その一言で、クラス中の女子の視線が千秋へと集まる。
「えっ、えっ」
千秋の詰めが甘いという悪い癖が出たようで、得意気だったのはどこへやら。
女子のブーイングの嵐に戸惑いながらおろおろするばかりだ。
「柏木、サイテー」
「早く新藤くんに体操服返しなさいよ」
そんな声が飛び交う中、僕は千秋から体操服を取り返す。
「……新藤」
そんな風に切なげな上目遣いで僕を見上げる仕草はとても可愛くて、思わず綻びそうになるがぐっとこらえて背を向けた。
そして千秋を責めている女子たちに向かってにっこりと微笑んでおいた。
「あったならいいよ。僕は気にしてないから」
そう言って着替えるために教室を出ていく。
「新藤くんは優しいから許してくれたけど、柏木もモテないからって僻むのやめたら?」
「ばっ、ばかやろう! 僻んでなんかねーよ!」
そんな声が聞こえて、教室を出たところでクスッと笑ってしまった。
もっと気になれば良い。
そして僕を好きになって。
最近は祈るようにそればかり思っている気がする。
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