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9.オレンジ色のキミ 2
そして今日もあの子と一緒に歩き、千秋が睨みつける横を通り抜け、もっと想像を膨らませられるように彼女の腰に手をまわしその視線がもっと鋭くなるのを確かめた。
その刺さるような視線を感じながら学校を後にすれば、いつものように角のところで彼女に背を向ける。
しかし、いつもなら何か言いたそうでも僕がさっさと帰っていくのを見送るだけの彼女だが、今日は僕の袖を掴んで軽く引っ張った。
「……ねぇ、新藤くん」
振り返ると、彼女は軽く俯いて自分の手をぎゅっと握り締めていた。
そして僕の正面に立つと、ゆっくりと顔を上げ耳を疑うような言葉を放った。
「あのね、私たち……付き合ってるってことで……いいの、かな?」
「は? どうして?」
「今日ね、隣のクラスの子に聞かれたの。それで……」
「付き合ってはないよね」
彼女が話し終わる前に淡々と僕が返すとなぜか彼女は驚いたように目を見開いた。
「えっ、どうして?」
いや、それは僕が聞きたいことだが、千秋に嫉妬させるための行動で期待を持たせ過ぎたのだろう。
これは自分にも非があるとは思いつつ、ややこしくなってきたので、もう潮時だと思った。
「最初にも言ったけど、僕は君と付き合うつもりはないよ」
「で、でも……そ、それは柏木くんが……私を……」
僕は本当にどうしようもない人間だ。
欲しいものを手に入れるために平気で人を騙すのだから。
利用される憤りを知っているからこそ他人は信じなくなった。だから彼女を見ていると自分を見ているようで嫌気がさす。
僕に近付く為に千秋を利用しようとする君と、千秋を手に入れる為に君を利用しようとする僕。
でも僕は僕を易々と利用させたりしない。僕の好きな人も絶対にだ。
だからこそ、そうなる前に僕が利用したまでだけど。
千秋はこんな僕の利己的な部分を見て、どう思うのかな。
こんな真っ黒な部分は千秋の為だよって言っても、許してくれないかもしれない。
そんなことを考えていると、彼女が肩を震わせて泣き始めた。
「新藤くん……酷い。思わせぶりじゃない」
遅かれ早かれ、こうなるとは思っていた。
ただ、同じようなつまらない人間同士であっても、ずる賢さは僕の方が上手 だ。
僕は自分のテリトリー内で決して敵を作らない。
「君は、僕に近付くために千秋を利用したよね?」
核心をつく優しさの欠片もない冷たい視線に彼女は脅えた目をした。
金輪際、僕にも千秋にも近付いて欲しくないから千秋を理由にするけど、ごめんね千秋。今だけ許して。
そう心の中で呟いて、また冷たい目で彼女を見下ろした。
───…
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