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9.オレンジ色のキミ 3
「─────…そういう人間、大嫌いなんだよね」
目の前にいる彼女は涙を拭うことも忘れ、僕を見ながら立ち尽くしていた。
彼女にいろいろと言って最後はこんな感じで締めたわけだけど、彼女はどのように受け取っただろうか。
しかし多少無理のある話でも理論的に話せば、どんなに無謀な話だって正当に聞こえると思う。
最初は反論してきた彼女だったが、僕が冷静な口調で理論的に返していけば次第に口を閉ざしていった。
そこに言葉の温かさなどはない。冷たい響きには余計に高い壁を感じただろう。
何を言ったかというと……。まぁ、簡単な話。
千秋を振ったくせに僕に近付きたいから千秋を利用しようとしていたのは気づいていた、とか。
思わせぶりだというけどそれは君だって千秋にしていたことで、 僕は君と同じことをしたまでだ、とか。
君が本当に千秋にふさわしいか見極めるために君の誘いに乗ってはみたが……がっかりしたのは僕の方だ、とか。
……とまぁ他にもいくつか言ったけど、我ながらよくもこう、すらすらと言葉に出てきたものだと感心する。
たいした話はしていないのだが、僕の理論攻めに思考が爆発したのは彼女の方で。
最後は泣きながら「ごめんなさい」なんて言って走り去っていった。
自分のずる賢さには呆れながら、こんなことをしている自分は子供っぽい気もしてそれも嫌になった。
後味の良いことではない。自分がされて嫌なことを、される前に自分が相手にするのだから。
彼女はもう僕たちに近付いてはこないとは思うが、スッキリしない気分が疲れを倍増させる。
今日は早く寝て忘れてしまおうと思った。
**
家に帰ると姉貴が家の中をバタバタを駆け回っていた。出掛けるのだろうか。
「出掛けるの?」
「うん、ちょっとねー。遅くなるから晩御飯は1人で食べてね」
「わかった。僕、今から寝るから鍵はちゃんと閉めて出て行ってよ」
すると姉貴は支度する手を止めて、心配そうに僕の顔を覗き込む。
「どうしたの? しんどいの?」
「違うよ。ただ寝不足なだけ」
すると少しホッとしたのか安心した顔を向けるとまた姉貴はバタバタと忙しそうに動き始めた。
そして、僕は部屋に入ってドアを閉める。
半分だけカーテンを開けた窓からは夕日が差し込み、部屋をオレンジ色に染めていた。
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