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9.オレンジ色のキミ 4

はぁ……と、ため息が部屋中に響く。 今日は本当に疲れた。 毎日重苦しい気分だが、今日は一段と重い。 いろんなことがあって、その全てが面倒になって……。 何となく限界って、こういうものなのかなって思った。 そしてベッドに寝転がって天井を見上げながら無性に思う。 千秋に会いたい。 千秋の声を聞きたい。 千秋に触れたい。触れられたい。 抱き締めたい。……出来れば、抱きしめ返して欲しい。 そんな風にまた千秋への想いが大きくなると、ベッドサイドに置いていた袋から千秋のTシャツを取り出した。 日に日に千秋が切れるまでの時間が短くなっていく気がする。 こんな僕をみたら君は呆れてしまうかもしれないな。 そんなことを考えながらTシャツを手繰り寄せ、目を瞑って想像の千秋の声に耳を傾けた。 『修平……』 一度も呼ばれたことのない名前で呼ばれることを想像しながら、いつかこんな風に呼んでくれないかなって思った。もし、千秋が下の名前で呼んでくれたなら天にも昇る気持ちっていうのになると思うんだ。 なんて自分の想像に呆れて、ククっと小さく笑うと不意にトントンとドアをノックする音が聞こえた。 姉貴が出掛ける前に声でもかけにきたのかな……ってそう思い、起き上がろうとした矢先。 「……新藤。か、柏木だけど」 思いもよらない声が聞こえてきて思わず固まってしまった。 その声は紛れもない千秋の声で。 どうして千秋がここに!? 微塵にも予想していなかった展開に、思いのほか軽いパニックになった僕は冷静にならなければと先ずは自分を落ち着かせる。 そしてそうしている間に、ドアノブがきしむ音が聞こえ、「は、入るからな」とややぎこちない千秋の声がすると、ゆっくりとドアが開いたので思わず寝た振りをしてしまった。 そして開いたドアから千秋が入ってきて、僕の傍に立っているのがなんとなくわかる。 だいぶ傾いてきた日が、カーテンの隙間から差し込んで顔に当たっていた。 目を閉じていても目蓋から感じる光がオレンジに見えて、熱くて。 それはただの夕焼けか、それとも千秋に見られているからだろうか。 そして暫く千秋は何も言わずにじっと立っていて、僕もタイミングを逃して寝た振りをしたままの状態が続いた。

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