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9.オレンジ色のキミ 6
目が合うと千秋は途端に慌て始めた。
「あ、あのさ……い、家の前でお前の姉ちゃんに会ってさ、戸締まりしろとか……言われて」
落ち着きなくしどろもどろになりながら、千秋は何故自分がここにいるのかを説明している。
たしかに姉貴は慌てていたし時間を気にしていた。そんなところで千秋を見つけて戸締りを頼んだのだろう。
でもその状況をなかなかうまく説明できなかった千秋は、いつも吊り上がった眉を下がらせながら俯いていた。
「不法侵入……」
でも、そう僕が呟くように言えばハッとした顔をして千秋は途端に眉を吊り上げた。
その方が千秋らしい。
「不法侵入じゃねぇよ。お前の姉ちゃんがお前は部屋にいるからって……」
僕の言葉一つでいろんな表情を見せる千秋が本当に愛おしくて、思わず綻んでしまいそうになるのを我慢しながら口を噤んでいると、僕もいつも通りの平常を取り戻しつつあった。
落ち着いてくると不思議なもので次はどんどん欲が湧いてきて、千秋がここに来た本当の理由を千秋の口からちゃんと聞きたいと思う。
だから少しだけ、もう少しだけと心で言って、僕は表情を落とした。
すると見る見るうちに千秋の顔色がまた変化していくのがわかった。
それにしても、さっきから僕はベッドに横になったままだ。
この体制もなんだな、と思い起き上がって座ろうと僕が上体を少しだけ起こしかけたその時。
なぜか千秋は目に見えて表情を曇らせた。
でもその刹那。肩を思いっきり押されて、千秋の表情の意味など考えてる余裕なく背中を叩きつけられるようにベッドに倒されたかと思うと。
……気が付いたら、千秋が僕に馬乗りになって僕のことを見下ろしていた。
そして千秋は途端に顔を赤くして僕に怒鳴るように言ってくる。
「お前見てると、ムカつくんだよ……。なんか言えよ!」
「何かって?」
僕が冷静に聞き返すと、千秋は更に声を荒らげた。
「お前、見てるとイライラするんだよ」
「それはさっきも同じようなこと聞いたけど」
すると千秋の肩が震え、それが捕まれている胸ぐらに僅かに伝わった。
そして千秋は更に声を張り上げる。
「なんで俺のこと無視するんだ!」
「…………」
「俺は無視するくせに、どうして他の奴は無視しない! しかも、笑顔でとかムカツク」
怒っているけど、なんか泣きそうで。
そんな千秋の表情を見て、もう少しだと思った。
「それは、柏木に関係ない」
だからこそ、“千秋”と呼ばずに、あえて“柏木”と呼べば……千秋は眉間に更に深くしわを寄せた。
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