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9.オレンジ色のキミ 8

だからニッコリと微笑みながら鼻先がくっつきそうなほど顔を近づけて、そっと囁くように言った。 「よく出来たね。えらいよ、───…千秋」 すると耳まで赤くしていた千秋だったけど、それを悟られまいとして必死に噛み付いてくるように言い返してきて、そんな姿も微笑ましく思ってしまう。 「何がよく出来たね、だよ! さっきから意味がわかんねぇんだよ!」 「相変わらず鈍いな」 クスクス笑うと、千秋はまた不機嫌そうに眉間にしわを寄せた。 「ちゃんと説明しろよ」 「千秋の気持ちが聞けて嬉しい。やっと言ってくれたね」 するとその瞬間、ハッとした千秋は事の全貌に気がついたようで。 「まさか合格って……」 わかったのならと、千秋の髪を撫でながらネタばらしすることにした。 「どうやったら千秋に意識してもらえるかいろいろ考えたけど、やっぱり効果てきめんだった」 「もしかして……」 そして思い出したのはいつか僕に注意されたくて派手なシャツを着てきた千秋の姿で、思い出しながら思わずクスッと笑ってしまう。 「僕の気を引こうとして派手なシャツ着てきた千秋は最高に可愛かったよ。あれ、どこで買ったの?」 思い出すとおかしくて笑っていると、千秋は大きく目を見開いたかと思えばわなわなと震えだした。 「ふ、ふざけんなよっ! 俺がいったいどんな思いをしたと思ってるんだ!」 「どんな思いをしたの?」 わざと軽く聞き返すとまた千秋は難しそうに顔をしかめたので笑ってしまう。 でも千秋はしかめた顔のまま口を尖らせて呟くように言ってきた。 「なんでマリエちゃんと帰ってたんだよ。付き合ってんだろ?」 「誰がそんなこと言ってるの?」 「クラスの女子……」 予想はしていなくはなかったが、やはり大きなため息をつかずにはいられなかった。 千秋も噂を信じてしまっていたんだと思って、やっぱりって思う反面、少しがっかりもしたからだ。 「僕が彼女に興味ないのは千秋も知ってただろ?」 でも千秋の言い分は、僕にはとても可愛いものだった。 「だ、だってお前が腰とかに手を回してやがるから悪いんだ。妙に距離とか近いし、今までそんなことしなかったくせに……」 「ふーん。だから妬いたんだ?」 「だっ、誰が!? 妬いてねーよ」 明らかに焦っている千秋は僕から目を逸らしたので、代わりに耳元で囁いた。 「僕のこと盗られると思った?」 「…………」 千秋はそのまま黙り込んでしまったから図星なんだと思うと、より愛おしくも感じた。

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