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第10章 切なくなるほど可愛い人 1

想いが通じ合ってからのキスは今までとは比べられないくらい甘くて、酔ってしまうんじゃないかってくらいに気持ちいい。 ただ唇を合わせているだけなのに。ただ舌が触れ合うだけなのに。 ただそれだけで、体温を感じて鼓動までピッタリと重なったみたいな感覚に千秋をもっといとおしく感じて夢中で舌を絡めた。 「……っふぁ……んっ……っ」 千秋の鼻にかった声が聞こえれば、もっと夢中になる。 好きで好きでたまらないと体が叫ぶように、僕の細胞の一つひとつが千秋を求めている気がした。 そして千秋不足だった僕は貪るようなキスをして、千秋もまた応えてくれることが嬉しくて角度を変えながら何度もキスをする。 ピチャピチャと音を響かせ、やっと唇が離れるとツーっと唾液が糸を引きながら垂れて口の端を濡らす。 息も上がって頬を赤らめてる千秋が無性に色っぽい。 でも目が合うと恥ずかしくなったのか途端に逸らされてしまったけど、それもものすごく可愛かった。 すると僕から目を逸らした千秋がハッとした感じで目を見開いたかと思えば、何かを掴むようにそっと手を伸ばした。 どうしたのかと思い僕も視線を向けてみれば……そこにあったのは千秋のシャツ。 さっきまでそれを抱きしめて、そのまま置いていたものだ。 「これ、捨てたんじゃなかったのかよ?」 そう言われて少しだけ後ろめたい。 僕は全然構わないのだけど、普通は自分のことを想像して……そういうことをされていたなんて知れば良い気はしないだろうな、って思って焦ったからだ。 「捨てるわけないじゃないか」 やんわり言えば千秋は途端に眉を吊り上げた。 「嘘ばっかりつきやがって! つか、なんでコレ持って寝てたんだ?」 本当に野暮なことを聞く人だと思う。 「千秋補給」 「はぁ!?」 わかってない様子の千秋を見てクスクス笑いながら、そっと千秋の頬に手を添えた。 千秋ってば鈍いからなぁ。 もう、こうなったら直球でいこう。 「千秋に触れられなかったから千秋が足りない……」 そう言いながら抱き締めて首筋に顔を埋めた。 「い、意味わからん! つか、くっつくな~」 「やっぱり本物の千秋のが格段にいい匂いがする」 「に、匂いって……この変態が! つか、なんか腰に当たってんだけど」 「それは千秋の匂いをかいだから。それに千秋だって同じだろ?」 そう耳元で囁けば、急に千秋が静かになったので、可笑しくてまた顔が綻んでしまった。

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