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1.その笑顔には裏がある 8

──満たされない。 その度に相手を見下ろしながら思うんだ。 こんなに体の一番奥深くで繋がる行為をした相手なのに少しも気持ちが動かないなんて、僕は人間として欠陥でもあるのかなって。 ……でも答えは簡単で、それは僕が好きになった相手じゃないから。 ただそれだけのことに気付く。 昔は好きだなぁと思う子も、可愛いなぁと思う子もいたはずなのに、僕の心はどんどん歪んで今ではこの有様だ。本当は目の丸い可愛い子の方が好みなのに、言い寄って来るのは自分に少なからず自信がある子ばかりで濃い化粧ときつい香水が鼻に付く。 上手くいかないものだなと軽くため息をつくと、なぜか女の方は明るい声で僕に体を擦り寄せて来た。 「今度さぁ、修平の家に行ってみたいなぁ」 「はぁ?」 あまりにも冷たく言い放つと相手の体がビクついたのがわかった。 やっぱり僕は冷たい。 でも、一度や二度寝ただけで、僕のテリトリー内に入ろうとしてくるのってウンザリする。 そしてそれを僕の表情から感じ取ると大概物わかりの良い振りをするんだ。 「……そ、そっか。そうだよね。いきなり言われても嫌だよね?」 それだけ僕に嫌われたくないから。 僕みたいな男のどこがよくて媚びを売っているのか。 「じゃあ、帰る」 「え、もう? 泊まったりしないの?」 まだ裸に近い女性を置いて身支度を整えさっさと帰る男なんてやめたらいいのに。 そんなことを思いながら、僕はホテルを後にした。 自分のことを好かれるのは悪くないけど、僕に好かれようと一生懸命に媚びを売るような人には全く興味が湧かない。外見ばかり綺麗に取り繕っても、心惹かれるものもない。 それは同性でも言えることで、僕といるとメリットがありそうだからと、その本心を隠して友達になりたがる奴らも同じだ。 そんな下心ありきの友情なんか友情でもなんでもないし、僕だってそう易々と利用させたりしない。 まず僕を良い人と思っている時点で間違いなわけで、そういう奴らには適当に笑って流して手の内なんか絶対に見せない。 そんな奴らはつまらない人間だからだ。 でも、偉そうに言う僕もつまらない人間だとわかっている。 この世に打算的ではない人間なんてどれくらいいるのだろう? ……今のところ僕が知る人間には姉貴以外に、そんなやつ一人しか知らない。 そうだな。 柏木なんかは面白い部類の人間になるのかもしれない。

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