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2.少し馬鹿な天邪鬼 2

次の朝。昇降口で柏木を見かけた。 ちょうど昨日、一年の頃のことを思い出していたから今日は久しぶりにからかってやろうかと近付いてみると、柏木の後頭部に寝癖があって歩くたびにひょこひょこ揺れていた。 「おはよう。柏木、寝癖ついてるよ」 開口一番にそう言いながら僕がその跳ねてる毛束を触ると、その手を振り払うようにしながら柏木が振り返る。 「な、なんだよ! 勝手に触んな! 跳ねてないし」 「いや跳ねてるんだよ」 「跳ねてないし! 朝、鏡で見て跳ねてるとこ全部直したんだからな!」 なんだよ、その理屈。その言い振りからすると朝はもっと悲惨だったのかと思うと、寝癖がすごい柏木を想像してしまってクスッと笑えば、あからさまに柏木の機嫌が悪くなった。 「なんだよ! お前なサラサラストレートだからっていい気になってんじゃねぇぞ!」 「あ、髪質褒めてくれたの? ありがとう」 「褒めてねぇよ! なんでそうなるんだよ!」 僕から逃げるように足早に歩く柏木をからかいながら追いかけて教室へと入っていくと、もう喋りかけるなと言わんばかりに僕のことを睨みつけて自分の席へと向かいどかっと座った。 そんな柏木の態度が面白くて笑いを堪えるようにしながら僕も席に着こうとすると、このやり取りを見ていたクラスの女子が僕に近づいてきた。 「柏木の寝癖の話してたけど、新藤くんって寝癖とかつかなそうだよね」 おそらくこの子にとって僕と話す話題であればなんでもよくて、たまたま柏木の寝癖の話がちょうど良かったのだろうけど、なんとなく余韻を邪魔されたような気がした。 でも、そんなことはおくびにも出さずにっこりと微笑む。 「つくときもあるし、つかないときもあるよ」 「そうなんだ〜。いつもいい匂いするけど、シャンプーって何使ってるの?」 「さぁ、姉貴が買ってくるやつだからよくわからないな」 柔らかい笑顔を浮かべながら当たり障りのないことを話して、また柏木の方を見る。 すると柏木は同じように後頭部の寝癖を仲のいいクラスメイトの内川にも指摘されたようで、真っ赤な顔をして怒っていたから、僕はまた笑いそうになってしまった。 鏡は前からだけでなく、後ろからもちゃんと見ろよって言ってあげたらまた怒るかな?

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