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第56話
千紘は目が覚めて時計を見た。時計は午前3時を指していて起きるにはまだ、早い時間だ。神津先輩は自室に帰ったらしく姿はみあたらなかった。もう一度寝ようと目を閉じるがなかなか眠りにつけない。そうなると頭の中には次々に昔のことや逃げてきた事など今までの嫌な事が頭の中をうめる。それはいつも朝まで続き明るくなる頃、潮が引くように頭の中から消えていく。それが嫌で千紘はベッドの上で体を起こし重い腰を労りながらそっと足を下ろして立ち上がった。
ケトルでお湯を沸かしマグにカフェオレを作った。ゆっくりと喉をすぎる温かさに少しこめかみ辺りの強張りがとれたような気がする。一人の夜は好きじゃない。傷つけられようが誰かと一緒にいたい。発情期でやはり精神的にも不安定になっているのかまた、前の様に一人でいる寂しさに耐えられなくなっていた。
いつの間にか寝ていたのか千紘が次に目を覚ました時には窓の外が明るくなっていた。ゆっくりとベッドから起き上がりだるい体をのそのそと動かして制服に着替え手早く髪を整えた。
食堂はいつものようにすでに沢山の人が食事を始めていて千紘もその中にまぎれ一人黙々と食べ始めた。隆也の姿が見えないのはすでに朝練に行ってしまったからなのだろうか?あっという間に空になったトレーを持って片付けると自室に向かって歩き始めた。
部屋に戻り授業の準備をして一人教室へと向かった。クラスメートに挨拶をしながら自分の席につき外の運動場をみてみると隆也がランニングしているのが見えた。今日も薬は良く効いているらしく体の調子も悪くない。あと数日で発情期も終わるはずだ。この調子で今回もなんの問題もなく終わるだろう。そして、土曜日にはまた、須藤と会う約束をしていた。
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