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第57話

 無事、発情期も終わりまた、いつもの平凡な毎日が戻ってきた。週末になり今日は須藤と会う約束をしている日だ。千紘は寮での食事を終えると外泊届を出し町へ向かってのんびりと歩いていた。須藤は寮まで迎えに来ると言ったが千紘は一人で散歩をするのが大好きだったのでのんびりと駅まで歩き電車で須藤の自宅まで行くことにしていた。いつも食事を奢ってもらってばかりなのでたまには手土産でも買おうと駅前で洋菓子屋さんに入った。ショーケースに並べられた沢山のケーキを眺めながら須藤さんは何が好きなのかな?と考えた。そう言えばあまり食べものの好みを知らなかった。とりあえず、チョコレートのケーキと生クリームのショートケーキを買って店を出た。電車に乗り窓から外の景色を眺めていると初夏の日差しに照らされてキラキラと光る海が見えた。眩しさに目を細めながら千紘は海に行ってみたいなと思った。  須藤宅の最寄り駅に着きもうすぐ到着すると連絡を入れた。そしてのんびりと道を歩いていると前から須藤が歩いてくるのが見えた。  「千紘君。久しぶり。待ちきれなくて迎えにきちゃったよ。」  満面の笑みを浮かべながら須藤は千紘の手をとり早く早くというようにひっぱるように家に急いだ。ドアの中に入るなり須藤は千紘を後ろからしっかりと抱きしめた。  「あー、千紘君だ。なんだかお日様のにおいがするねえ。千紘君に会いたかったよ。」  須藤はいつも千紘に対してストレートに思いを語りかけてくる。そんな須藤を顔を赤くしながら千紘はいつも俯いている。須藤が向けてくる好意は心地良いものだがこのまま流されていいのか千紘にはわからなかった。  「ソファにでもかけて待っていて。もう、お昼の用意、ほとんど終わってるんだ。もうすぐできるからね。」  千紘は持ってきたケーキの箱を須藤に渡しソファへと腰かけた。  「ありがとう。」  そう言ってほほ笑みながらキッチンへと向かい昼ごはんの支度の続きを始めた。千紘はそんな須藤の姿をぼんやりと眺めていた。

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