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第65話
隆也はすっと立ち上がると千紘に手を振ってドアに向かって歩き始めた。
「なにか困ったことがあったらちゃんと言えよ。」
そう言ってドアを閉めて出て行った。千紘は隆也を見送りながら最近、色々なことが起こりすぎて頭の中がごちゃごちゃする。いっそのこと真っ白に戻してしまいたいくらいだ。こんなにうだうだと考えたり周りに振り回されるなら前のままの生活の方がよかったなと少し思っていた。人と付き合うということはこんなにも煩わしい。
「はぁ……。」
千紘は溜息をついてベッドの上に寝転がった。何もかも忘れて自分の好きなように気持ちいい事だけしたいなあ。なんて考えていた。
いつの間にか眠っていたらしく目が覚めるとすっかり朝になっていた。千紘は幾分か気分もましになって顔を洗い制服に着替えた。いつもの様に食堂に行き朝食を済ませて教室へと向かう。
「高梨ー!」
教室に入るとクラスメートの梓が声をかけてきた。
「おはよう。何?」
千紘は自分の席に座って教科書をなおしながら梓に視線を向けると
「別に何もないんだけど高梨いつも一人でぼーっとしているからたまにはしゃべらないかな?って?」
そう笑いながらニコニコしている梓は何にも考えてないように見えた。確か梓もオメガだったはずだ。小柄で可愛らしい容姿に明るい性格、みんなに好かれている。同じオメガでも僕とは大違いだな。そんなことを考えながら梓がしゃべっていることを聞き流していた。
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