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満月の夜 其の四

「世良君は、もう帰るの?」  汐がそう告げたのは、彼の家の門を開けた直後の事だった。 「いや。今のあんた放っておけないんで。汐さんが寝てから帰ります」 「そんなに心配しなくても大丈夫なのに」  くすくすと口元に手を当てて笑う彼は、次に家の扉をゆっくりと開く。  土間には何故か桶が積み上げられており、まるで何かの儀式をした後のようで少し不思議な光景だった。 「汐さん。なんで、こんなに桶が……」  後手で扉を閉めながら、世良は積み重なった桶を指差す。  刹那――、振り返った汐に肩を強く掴まれ、そのまま壁へと追いやられる。  背中を打ち付けた痛みに小さなうめき声が漏れるも、世良の声は彼の口の中に含まれてしまったように思う。強く強く押しつけられた唇。まるで噛みつくように、貪るように、汐は何度も世良の唇に口付けを施した。 「っ、汐さん、……、急に、どうし、」  言葉を紡ぐ暇すら与えられず。口内に入って来た舌に無理やり口を開かされる。こんなにも一方的で攻撃的な口付けをされたのは初めての事。世良の戸惑う舌先は、流し込まれた唾液を喉元へと誘った。 「……せら、……っ、せ、ら……」  熱に魘されたような甘ったれた声。顔を掴まれ、顎や首、それから耳元に口付けを落とす彼は、世良の体を求めてくれているようにしか見えない。 「せら、もっと……も、っと、キス、して……」 「きす、って……っ、ん、……ちょ、っと……汐さんっ、」  言葉を告げている最中にも唇を啄まれてしまい、汐が最近告げる『きす』の意味は分からないままだ。 「……せら、」  やっと落ち着きを見せた口付けの応酬。  彼は世良の首元に腕を回し、縋るように抱き着いて来る。 「んな可愛い事してっと、抱きますよ?」 「……ん。いーよ。抱いて」 「は?」 「だから、良いって。せら、……ここ、はやく」  彼はそう言いながら、世良の股間へと手をやった。濃厚な口付けの所為で、既に中心部は固くなっている。そこを執拗に撫でまわす汐の手は、妖艶としか言い様がなく、その瞳も然り。 「いれてよ。お前の、ほしいんだけど?」  おもむろに世良の袴の紐へと掛けられた指先は、するりとその結び目を解いた。外気に晒されたのは、湿り気を帯びた先端。彼の綺麗な指先が這うだけで、背筋に甘い快楽が走ると言うのに。すとんと、着物が汚れる事も厭わず腰膝を折った汐は、躊躇う事なく舌を伸ばしたのだ。  くちゅりと厭らしい音を立てて吸い付かれ、世良の膝がかくんと震えた。 「汐さん。あんたっ、なにして……」  世良の言葉を切ったのは、美味しそうに雄を舐める汐の視線だった。赤い舌が裏筋を這い、深く含まれる。思わず零れそうになる喘ぎを必死に奥歯で噛み殺しながら、世良は恐る恐る彼の頭へと手をやった。さらりとした髪が指先に絡まり、彼の熱い体温がじんわりと伝わってくる。正直、こうして汐が自分のものを愛撫していると言う事実だけで達してしまいそうだ。  彼は掌で根本を扱き、器用に舌で先端を嬲る。  その速度が速まるにつれて、徐々に射精感が込み上げ始めた時―― 「せ、ら……」 「なん、っすか?」 「あたま、ぐるぐる……、して、きた……」  そりゃそうだ。  酔っぱらってふらふらな上に、世良のそれを扱くために頭を振っていたのだから。 「はきそ、……はく、……きもち、わる……」 「はあ!? ちょ、待って下さいよ!」  中途半端に放置された射精感に気持ち悪さを感じたまま、世良は慌てて傍にあった桶をひったくって彼の顔前へと差し出した。下半身を晒したままと言う恥ずかしすぎる恰好ではあるが、嗚咽く彼を放ってはおけない。  声を掛けながら背中を摩ってやり、とにかく吐き出せるものは全て吐き出させた。

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