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満月の夜 其の六

「どーん」 「……っ!? 痛ぇ」  乱暴に体を突き飛ばされ、身構えもしていなかった世良は、思い切り背中を畳へと打ち付けた。どうしてこんな暴力を振るわれなければならないのか、と恨めしそうに汐を見遣った矢先のことだ。 「俺を丸め込もうなんて百年早いっつーの。クソ餓鬼はクソ餓鬼らしく、猿みたいに飛び掛かってくりゃ良いんだよ」  随分と前衛的で挑発的な彼の態度に、世良はきょとんと目を丸める他なかった。おもむろに世良の体へと跨った汐への対応が遅れてしまったのも、彼の思考回路が全く掴めなかったからである。 「っちょ、汐さん!? なに、やってんっすか……っ!」  慌てて身を起こそうとするも、局部を掴まれてしまっては抵抗も出来ない。 「お前が入れてくんないって言うから」 「っ、あんたが、好きだって言ってくれたら良いだけ……っちょ、汐さ、っ」  小さく腰を上げた彼は、自らの手で中心部に世良を突き立てた。みちみちと飲み込まれて行く感覚に、まるで何よりも大切なものを中へと誘っているかのような彼の表情に。世良は与えられる快楽に対して従順になる事しか出来なくなる。 「せら、っん……、は、ぁっ、いい、よっ……きもち、い」  汐は恍惚とした表情を浮かべながら、世良の腹に手を当てて、ゆるゆると腰を上下させていた。世良に吸い付く内部が、焦らすようにうねっている。もどかしさの余り腰を突き上げると、彼は身を逸らして善がった。 「っぁ、ん、……せら、のっ、おっきく、って……いい。きもち、っい……。ぁ、ん、んっ……もっと、もっと、ちょーだい、せら、ぁ……っ」  世良が腰を持ち上げると同時に、汐は腰を落とす。彼の最奥を引っ掻く切っ先は、今にもせり上がる欲を放出しそうなほどに膨れ上がっていた。このまま彼の中を白に染めたいのは山々だが、だんだんと息があがる汐の様子を気遣い、一旦動きを止めてやる。 「せーら、っぁ、……きもち、い?」  ぺたんと世良の上に座り込んだ汐は、世良の心境など微塵も悟っていない様子である。小休憩を挟むべく律動を堪えていると言うのに、汐は肌を擦り合わせるかのように腰を前後に動かし始めたのだ。 「汐、さん……。あんま動かれる、とやばいんっすけど……」 「ヤバイの? イくの?」  こてんと首を傾げながらも、汐は腰の動きを止めようとはしない。  それどころか、腰を前後に揺らしながら、汐は自らの雄に手を掛けた。 「俺が、お前に突っ込まれてオナニーしてるの……、見たい?」 「なんっすか、おなにーって……」  世良の問いかけは、満足げに「ふふん」と鼻を鳴らした彼の笑みに打ち消される。同時に、彼の親指が、反り立った先端へと埋められた。綺麗な掌が彼の雄を包み込み、ゆっくりと扱かれていく。次第にくちくちと厭らしい音を立て、汐の口から零れる吐息も随分と熱く色濃くなった。 「……っ」  誰が、自分の上で自慰をする彼を冷静に眺められると言うのだろう。  はち切れた理性は彼の腰を強く掴み、強引にその後方を犯し始めた。 「ぁっ、ゃっ、激し、んっ……ぁ、っぁ、ゃ、あ……っ!」  腹の上で弾け飛ぶ白濁。きゅうと全てを搾り取るように吸い付く体内が、彼の満足度を示していると言っても良い。それから数度挿入を繰り返した世良も、彼の最奥に力強く押し入った後に、込み上げた熱を発散させた。 「せら……、」  汐は世良の胸元へと倒れ込むや否や、この体を強く抱きしめてくれるのだ。全身で感じる彼の温もり、目下の髪を優しく撫でて抱き寄せる。この時を至福と言わずして、自分はいつこの言葉を使えると言うのだろう。 「汐さん」 「ん」 「俺のこと、好きっすか? ……痛っ、ちょ、なんで噛むんっすか」  噛みつかれた首筋に手をやれば、悪戯が成功した子供が無邪気に笑んだ。 「キスマークの方が良かった?」 「何しようとしてんのか分かんねぇけど、痛いのは嫌っすよ」  けたけたと笑う汐を抱き起こした時、外から差す朝焼けの存在に気付く。  今日は、この男を抱きしめて、心行くまで眠りたい気分である。 「とりあえず、体拭きますよ」 「ん」  ごろんと布団の上へと寝転がった汐は、四肢を伸ばして大人しく世良の持った布を受け入れた。体の隅々がべたつくが、この寒さの中、「寒い」と布団の中へと這い入ろうとする彼の体を冷たい水で拭くのは気が引ける。 「お湯、沸かしてくるんで。……寝ないでくださいよ」 「んー」 「寝てたら襲うんで」 「やだ。もう無理……、体痛い」  軽く着物を羽織った世良は、一瞬にして駄々っ子へと変化した男のために土間へと出る。どこからともなく入り込んでくる隙間風は随分と冷たく、今日にも雪が積もりそうだ。

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