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15 訣別
『戻れ、隼人。ここで訣別だ』
隼人の思いと裏腹に、栄司はそんなことを言う。
俺はお前と一緒に行きたいのに。お前と命運を共にできるのなら死さえ厭わないのに。
反論しようとした隼人の耳に、栄司の穏やかで優しい言葉が忍び込んできた。
『行け、隼人。お前には、守らなくてはならない人達がいるだろう』
「……っ!」
そうか、と思った。
だから栄司は、こんなことをしたのだ。隼人の複雑な思いを、未練を知っていたから、隼人ひとりを生き延びさせる方法を選んだのだ。
一度特攻に出撃して、機体の不備などで基地に戻ることはたまにある。その場合、再び出撃することにはなるのだが、すぐに命令が下るとは限らないのだ。
もしかしたら隼人が再度の出撃を待つうちに特攻作戦が終わる、もしくは戦争が終わるかもしれない。そうしたら隼人は生きたまま家族のもとに戻れる。栄司はそう考えたのだろうと、隼人には手に取るように分かった。
馬鹿が……と隼人は内心で栄司を罵った。俺はお前と死にたかったんだ。お前とだから死んでもいいと……。
操縦棹を握りしめ、隼人はうつむき、血が滲むほどに唇を噛んだ。
その時だった。操縦棹の裏に隠すようにくくりつけられた、あるものに気がついた。
「あ……」
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