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16 思い出

それは、白つめ草の指輪だった。白いささやかな花の宝石と、緑色の細い茎を編んで作った輪。 瞬間、幼い日の思い出が甦ってくる。 隼人の妹を連れて、栄司と三人で近くの野原で遊んでいたときのことだ。 どんな話の流れだったか、栄司が妹に『外国の恋人たちは結婚するときにお揃いの指輪をつけるんだよ』と教えた。すると、栄司に懐いていた妹が自分も欲しいと言い出した。 少し困り顔で微笑んだ栄司は、野原に生えていた白つめ草を摘んできて、指輪を編んでやることにしたらしい。 しかし、何でもそつなくこなす栄司だが実は手先があまり器用ではない。うまく作れずにいる栄司を見かねて、細かい作業が得意な隼人が教えてやったのだった。 なんとか作り上げた指輪を、栄司は優しく微笑んで隼人の妹に渡した。 『いつか大きくなったら、君が本当に心から大切だと思う人、人生を共に歩みたいと思う人に、本物の指輪をこういうふうに渡すといい。この指輪は、あなたを愛しています、ずっと一緒にいたいです、という意味だから』 そんな言葉と共に。 ―その思い出の指輪を、栄司は自分のために作って、そしてこっそりと、ここにくくりつけておいたのだ。 きっと、燃料を抜いて隼人を生きながらえさせる算段を終えた後に。 『…気障なやつ』 隼人はかすれた声で小さく笑った。

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